2015/01/25

ADULT FAIRY TAIL Act.5-1 Joyeux Anniversaire Chalres 2015

~5幕(シャルル誕生日スペシャル前編)
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「ーーー、マリナ。  力を抜いて、 もっと」





むせかえるほどの悩ましい芳香、それは愛しい人の命の匂い。

重なる唇から流れ込む熱は、自分という形を蝕んで。

「ふ、む……ン」

この世の規範などどうでもいい、自分を形作る理性も今は何の力も無く。

逆らいようのない絶対的な浸潤が、自分を塗り替えていくこの瞬間。

例えようもない恐怖と安堵に翻弄されて、ただの肉と化すこの身体。

自分が自分でないこんな自分を欲しがる彼は、どれだけの業を背負っているのか。





きつく押さえつけられた不自由な身体を悶えさせ、貪られる唇から流し込まれる媚薬に、マリナはもはや自分を手放しかけていました。
もうどれだけ唇を合わせているのか。
永遠かと思われる口づけは、唇どころか、やがて身体すべてで、彼を感じるようになってきています。
まるで極上のフランス料理に舌鼓をうつように、ゆっくりゆっくりとそれを堪能するシャルルの所作は、彼自身の特異な性質を、如実に現していました。

いつまでもいつまでも飽きることなく……彼女の限界をとうに越えても、もっともっとと、無情にも彼女を押し上げます。



「ーーー男が、何にたまらなくなるか、知ってるかい?

自分に全てを許して、こうして力を手放した肉の感触が、一番の好物なんだよ……。
愛しい女が、一切のためらいや恥じらいまでも放棄して、身を投げ出して脱力してる、このなんとも言えない柔らかさが、一番欲しいものなんだ。
どんなに美しく気取っても、その最後のラインを譲らない女では、この快楽は得られないだろうね……。
素直に、どこまでも溶け合える覚悟のある柔らかさ、これを味わってこそ、至上の交わりさーーー。

マリナ、おいでマリナ。

オレに、君の全てを、あずけてごらんーーー」





まるで古の呪文のように、密やかに囁かれるその音は、マリナの耳を完全に冒してしまいました。
やがて、ゆるゆると緩慢に応え出した彼女の舌は、まるでクリームのよう。
一流の職人がこね上げた生地のように滑らかで、しっとりとした弾力と、驚愕するほどの柔らかさを併せ持って、彼に最上の幸福感をもたらします。

「は、ぁ……いい子だ。 もう、どうにかなりそうだよ、マリ、ナ」




熱く濡れる低い囁きを残して、シャルルは更に深く、マリナの唇を貪ります。

シャルルの繊細な指が、マリナの腰元に伸びた時、突然限界が訪れました。

久しぶりの愛の入り口に過剰反応したのか、マリナは唇をもぎ離し、熱をもった赤い頬を背けます。

「ちょ、ちょっと待ってて。ーーー喉、かわいちゃった、なんか持ってくる」
気だるげな重い吐息をついて、シャルルも少し身体を起こし、仕方なさそうに髪をかきあげました。
「じゃあセラーに良いワインがあるよ。くれぐれも振ったりするなよ、あわてんぼうマリナ」
丸いほっぺをむくっとふくれさせ、イーッと彼にしながら、ふらつく身体を必死にふるいたたせ、マリナは小走りにダイニングへ向かいます。


くっふっふ、やっと、ーーーやっとエッチしてもらえるぅぅぅ!


ゾクリとするような鈍い熱さが、彼女の胸を焼き焦がしていきます。
そう、この館にきて数日が経ちますが、実はまだ最後まで愛してもらえていなかった彼女は、くすぶる不満をずっと胸に抱えていました。
やっときたこのチャンスを、万全の態勢で楽しみたいと思い、マリナはダイニングに来たのです。
行動を起こすときの用意といえば、彼女にとってはそう、なんといってもお腹にものを入れることです。
でも最近は、吐息すらが悩ましい桃色になっているようで、そんな自分がちょっぴり嫌でしたが、……彼に組み敷かれ、妖しく濡れる青灰の瞳に見下されるあの閉塞感には、どうあっても抗えません。
実は、それを見透かされるのがいやで、ちょっと逃げ出して来てしまったのですが。
自然と上ってしまう口角を必死に戻しながら、マリナは、背高ノッポのセラーに飛びつきました。

「んーと、あ、コレね。美味しそう~」

はやる気持ちを抑えながら、眠りについているその美酒のボトルをそっと起こしつつ、グラスを落とさないよう大事に持ちました。

「ん? なにかしら」

セラーの扉を閉めようとしたその時、小さな包みが奥にあることに気がつきました。
まるで隠されるようにあるそれを不審に思いつつ、マリナはいったん手に持ったものをテーブルに置き、その塊におそるおそる手を伸ばします。

「これって…、どう見てもチーズ、よね……?」

手のひらほどの大きさしかありませんが、それは彼女の知る限りでは、間違いなくチーズと思われる物体でした。
透明なフィルムにぴっちりと包まれていますが、独特の感触と重み、そして欧州の食事スタイルに慣れつつある味覚が、ワインとチーズを口にした時の、あの得も言われぬ幸福感を呼び起こします。


ぐうっ


性欲に支配されていたはずの身体の優先事項の正直さに辟易しながら、それでもマリナは迷いなく、そのフィルムを破って、あの幸福に酔いしれようと、指をかけました。

しかし、その指は止まります。

なにやら、表面がデコボコとしているのです。

よく目を凝らすと、どうやら文字が彫り込まれているように見えます。

「ねーシャルルぅ! E、A、T、うーんと、M、E……かしら? って、なんて読むの~!?」

大声を張り上げて、隣室に居る天才の頭脳の持ち主に問いかけます。

「……それは……日本の義務教育での中学英語だと思うけど?」

彼にしては珍しく、絶句したような響きの返答にもなんのその、今更めげる彼女ではありません。

「あっそ。あたしその中卒なんだけど、もう忘れちゃった! もったいつけないで教えなさいよっ」

「ーーー”Eat me” 私を食べて、だろ。
ここに来て、オレの前にひざまずいて言ってくれたら、今の苛立ちも忘れてやるぜ。
早くおいで、おバカマリナ。フフ」

「う、うるっさいっ、エロシャルルっ」

とりあえずバカンス明けのレッスンからは、語学のコマ数を増やすとしようか、という死刑宣告が聞こえましたが、今はまだ楽しい夢の休日中。
目の前で静かに揺れる、艶やかな液体をしこたま彼に飲ませて忘れさせてやれ、と内心企んでいました。
それに最終兵器として、ーーー先ほど提案されたことをやってしまえば、彼はどうあっても折れることもわかっています。
瞬間、その光景が頭をよぎり、頭が爆発しそうになった彼女は、やっぱり大人しく語学レッスンの苦行をこなした方が、自分に負担が少ないなと諦めました。
当初のシャルル酔っぱらい作戦に目標を定めつつ、まずはこれからのお楽しみの為に、体力をつけることが先決です。

それじゃあご指示通り、ありがたく。

満面の笑みで、ガシッとチーズを握りしめフィルムを破った途端……



ゲッ!?!」



くさい、くさすぎる。
思わず放り投げてしまいそうなほど! その物体、とにかく臭うのです。
まるで、えーと、(お食事中の方がいたらごめんなさい)しばらくお風呂に入ってない人の脇の下、あるいは、あの汗に蒸れたかぐわしき足の芳香、と匹敵するのではないかと思える強烈な匂いが、鼻孔をつんざき、脳天を直撃します。
ミルク色のボディに放射状にはしる青い線が見えていたので、ブルーチーズの類だとはわかっていました。
しかし、発酵の国出身の、しかも食に関してはたいそう自信のある彼女です。
匂いが駄目でも、味が良ければ大丈夫!
何が大丈夫なのでしょう、明らかにカビの生えた物を前にして、まったくもって理解できませんが、彼女はそれを小さな欠片にもぐと、息を止めて、ポイッと大きな口に放り込んだのです。

ーーー、良い子は決して、真似しないでクダサイね。

息を止めていたにもかかわらず、瞬間、口の中にねっとりとしたクリームのような、濃厚な旨味がさざなみのように広がりました。
しっとりと重い食感、もの柔らかな塩加減、しかし口中を痺れさせる刺激と奥深さ。

想像をくつがえす味に、驚きを隠せませんでした。

この苦痛かと思える香りすら、この味わいに相応しい、いや、この香りだからこそ、この旨味を引き出せているのだ、発酵の国に生きるあたしにはわかる、と、ひとしきり意味不明の自己満足の感動をし、彼女は夢中でそのチーズにかじりつきました。
あやうく彼の分まで食べてしまいそうになり、……いえ、本当は食べてしまいたかったのですが、さすがにひとりでこの香りを振りまくわけにはいきません。
どれほど美味でも、この口でキスをするのは興ざめです。
お互いに『クサイ仲』にならなければ、なんとなくムードも台無しです。
後ろ髪を引かれる思いできびすを返し、マリナは酔っぱらい作戦道具一式を抱え、チーズを高々と上げて寝室へ入りました。

「いいツマミも見つけたわよ! ちょっとかじっちゃったけど、あんたにも分けてあげ」



ポト



一欠片のチーズが、絨毯の上を転がっていきます。



顔を上げるとなんと、

シャルルがいたはずのそのベッドの上に、

1羽の白いウサギがすっくと立っているではありませんか。



柔らかそうなふさふさの毛皮、長く伸びた白い耳は、注意深げに辺りを窺うように、ピクピクとせわしなく動いています。
おまけにそのウサギ、紳士然とした小粋なベストを着こなして、やおらポケットから懐中時計を取り出すとーーー

「時間ぎりぎりだな。待たせると面倒な相手だ、仕方ない」

しゃ、シャッ、しゃ~~~るるぅぅ!!?

もふもふの口元からこぼれた透明な声、チッと舌打ちするその様子までが、その動物が間違いなく彼であることを示していました。
音もなくぴょんと軽やかにベッドを飛び下り、ウサギシャルルは、脇目もふらずマリナの横をすり抜けて、ダイニングへと駆けだしました。


「ちょ、ま、待って!!」


仰天したマリナは、ワインもグラスもほっぽり出して、一目散にその後を追います。
広いダイニングの片隅まで来ると、なぜかポッカリと床に穴が開いています。
ウサギシャルルは素早くその穴に飛び込んでしまい、間一髪で後ろ足をつかみそこねたマリナも、バランスを崩し、もろとも落っこちてしまいました。



「ひ、ひえぇええぇえええ~~~!!!!!」



風切り音が全身を包み、マリナはどこまでもどこまでも、その空間に落ちていきました。

悲鳴の一息が足りないくらい、落ちて、落ちて、落ちまくりました。

しかし、あまりに長い時間落ちるので、マリナはおそるおそる辺りを見回すと、薄暗い井戸のような丸い空間の壁面いっぱいが棚で埋め尽くされており、食器やお菓子や、とにかく訳の分からない、色々なものが飾り立てられています。

落ちる時、そういえばのどが渇いていたんだっけと、手近にあった液体の入った小瓶をひったくり、また落ちていきました。

「ちょっとぉお~いつまで落ちるのよぉ。
こんなに落ちたら、地球の反対側だってとっくに通り越してるわよ! もうあきたーっ」

思わず居眠りしそうになってそう叫ぶと、やがて足元が明るくなってきました。
突然、着ていたローブの裾がボンッと傘状に広がり、シャルル好みのセクシーなランジェリー丸出しのまま、マリナはふわりふわりとゆっくり降下していきます。

「ぎゃ、ちょ、ぱんつっ、見え…!」

慌てて裾をすぼめつつ、最下層に無事足をつけると、そこには可愛らしいガラステーブルに金の鍵、足元にはちょうどウサギサイズの小さなドアがありました。
しかし、いくら彼女が小柄でも、到底ウサギサイズのドアは、通れません。

「うっそ~……、どうすんのよこんなとこで」

やけっぱちになり、マリナは小さなドアを蹴りながら、持ってきた小瓶の液体をグイッと飲み干しました。
とたんに、みるみる身体が小さくなり、あっという間にウサギサイズのマリナが、着ていたローブの布の海から、ズボッと顔を出しました。

やった、これならドアを通れる!

バンザイしたその瞬間、自分がすっぽんぽんなのに気付き、彼女は慌ててそこら中のワードローブを引っ掻き回し、自分に合うエプロンドレスを見つけました。



「よしっ」



Drawing BY しば嬢(@siva_178)


もう間違いありません。

いくら彼女が無知でも無教養でも無能でも、いいかげん気が付きます。


これは、世界中の誰もが知るあの世界、不思議の国のアリスの世界です。



「でも、ちょっとこの服、スカート短すぎじゃない? これじゃアキバやドンキで売ってるやっすいコスプレみたいじゃないっ、もう!」

ええ、太ももはもう丸出し、今時JKのように膝上何センチかと疑いたくなる、曲がりなりにも既婚のマダムが着用するには痛々しいその出で立ちに、アリスマリナは愕然としました。

「ま、いいわ、どうせシャルルはウサギなんだし、笑おうもんなら鍋にでもして喰ってヤるわ」

気を取り直してドアノブを回すと、ガチン!と、硬い金属音が響き、ドアはびくともしませんでした。
それもそのはず、鍵を開けていませんもの。
え、鍵は? ああそう、テーブルの上……うえ??
なんと、縮んでしまったせいで、テーブルに置いた鍵は、彼女のはるか頭上に……
慌ててテーブルの真鍮の足に飛びつき、うんせうんせと登ろうとしますが、あっという間にツルリと滑り、床に尻もちをつきます。
冷や汗をタラリと流した次の瞬間、そうか、また大きくなればいいんだわと叫び、片っ端から食べれそうなお菓子を、ポイポイと頬張ります。
食べることに関しては、彼女の右に出るものはいませんもの。
しかしーーー横に膨れあがったり、頭だけ巨大化したり、はたまたアリンコのように縮んだり、思うようにサイズの調整が出来ません。
ほとほと困りかけた時、着ていたエプロンドレスのポケットに、ピンク色の可愛らしいプチフールが入っており、最後の頼みとばかり、マリナはそれにかじりつきました。
するとどうでしょう、グングンと身体が元の大きさに戻っていくではありませんか。

「やったぁ」

マリナは金の鍵をひっつかみ、大事にポケットにしまいます。

「これでまた小さくなれば……え、ちょ、え!?」

ぐんぐんぐんぐん、身体は大きくなり続け、なんとマリナはその空間にピッタリと嵌り込むほど巨大化してしまいました。
窮屈そうに足を動かした時、ガラステーブルをうっかり踏み潰してしまいました。
でも、まるでクッキーが割れたような感触しかしません。
なんだか無性に悲しくなって、マリナの瞳から大きな涙が、ボロボロとこぼれます。
楽しいはずのバカンス、しかもやっと大好きなシャルルに、たっぷり愛を注いで貰えるはずだったのに。
食い意地がはったばかりにこんなことになったの?
あまりの不条理に、わーんわーんと大声を上げて泣くと、知らず知らず、こぼれた涙が溜まっていきました。
大口を開けて遠慮なく泣いていると、溜まった涙にプカプカと浮いたチョコレートの欠片が、マリナの口に入り込みました。
するとみるみる身体が縮み、マリナは自分の涙の海に、あっぷあっぷと溺れるはめになりました。
泳げない彼女は必死に、壁際に生える棚にしがみつきます。


『まっ、誰だいこんなに水浸しにして! これじゃあ仕事ができゃしない!』


どこからかヒステリックな声がして、キュッキュッと蛇口をひねるような音が辺りに響き渡りました。

まるでバキュームされているように、急速に減る水かさにつられて、マリナの身体までもが、どこかに引っ張られていくではありませんか。

うっかり手を滑らせた次の瞬間、マリナは自分の涙とともに、その空間から吸い出されてしまいましたーーー。















「げほ、ゴホッ、ここどこよ……」

ずぶぬれのモップのような髪をかきあげながら顔を上げると、青い空が見えます。
どうやら無事に、外へ出られたようです。
マリナはむっくりと起き上がり、スカートをたくし上げ、ぞうきんを絞るようにジャーっと大量の水を絞り出しました。



〽凍えた世界を溶かす赤 燃えるようなその色で、あの子の心も溶かしておくれ 
金の色は夏の太陽 光の恵み、あの子の髪を照らしておくれ〽



不思議な歌が、聞こえてきます。

身なりを整えながらキョロキョロ辺りを見回すと、その声はどうやら、頭の上の方から響いているようです。

ぐんと顔を上げると、それはそれは大きな葉っぱの上に、なにやら影が見えました。



〽ツァーリに捧げる高貴な紫 気高いその色は近寄り難く〽



その声に導かれるように、マリナはその葉っぱの茎にぴょんと飛びつき、器用に登っていきます。
葉っぱの上にズボッと顔を出すと、規則正しい隊列を組みながら、丸い煙がプカプカと空へ漂っていきました。

「おい娘っこ、あといっこの大切な色はなんだぁ?」

聞き覚えのあるこの声、この方言訛り。
マリナはある予感をもって、くるりと振り返りました。そこには

「ぎゃあっっ、気持ちわるい!! いもむしにミーシャの顔がついてるぅっ」

「よお、相変わらず丸っこいなおめえ」

そこには、旧友である美貌のロシア人……だったはずのミハイル・ゴットルプの顔がついた、でっぷりと醜く太った巨大ないもむしが、優雅に水パイプをくゆらせて寝そべっていたのです。

「あんたよかマシよっ。ああああああ! 目が腐るわっ、あんたあの美しいボディはどーしたの!? ダメよ、ほんとのあんたはそんなんじゃないはずよ!」

「本当の、オレ……」

「そうよっ、あのシャルルをも上回る美貌にもどってちょうだーい!」

「ありがとう、マリナ。でもオレは、もう決めたんだ」

アリスマリナはハッとしました。
それは、かつて陰惨な事件の幕開けに見た、”あのシーン”の時の顔だったのです。
凍てつく白皙の美貌の中に浮かび上がる、強い光を放つアメジスト色の瞳のあまりの美しさは、息を呑むほどです。その『下』さえなければ。

「あ、あんたねぇ、いもむしのまま顔部分だけで凄まれてもぉぉぉ……! ああっ、とにかくこれ以上見てたら美意識が崩壊するわよおっ、をえええええっ

「踊るべ」

いきなり破顔したミーシャいもむしは、くねくねと葉っぱの上でもっちゃりした胴体?を、くねらせはじめたのです。

「ダンスっていったら、やっぱり勇壮なコサックダンスだべ!」

いもむしミーシャがそう叫ぶと、草むらからネズミやら鳥やらが湧いてきて、重力に逆らってるとしか思えないキレの、コサックダンスを踊りだします。

「ほれっ、もっと足上げろ。したら、服がすぐ乾くべさ」

「で、できるか、こんなの! 死ぬわよっ」

なんせ万年運動不足のまんが家マリナ、ドテンとみっともなく尻もちをついて、悪態をつきます。
すると、どこからともなく、トルコチックな怪しげな音楽が流れてきました。
見ると、葉っぱの上のいもむしミーシャの背中が割れ、まるで宝石を散りばめたような美しい翅がこぼれだし、長い手足の、均整のとれたビスクドールのような白い雪肌の蝶ミーシャが、誕生したのです。
その美しさは、直視することすら禁忌だと思えるほど、この世のすべてを内包した魅力を放っていました。
やがて、男性的でありながらも、しなやかで素晴らしい形の筋肉が彫り込まれた腰をリズミカルに動かし、蝶ミーシャは漆黒の髪の隙間からこぼれるアメジストの瞳で、マリナを見つめます。
心臓が、鷲掴まれたように、ギュッと硬直します。
蝶ミーシャの腰だけがまるで別の生き物のように動きーーーそれは見るものの心が奪われるほど、なんと見事な踊りでしょう。
そしていつものクセで、その様子を必死にスケッチしていました。
でも本来コレって、男のヤるもんじゃないわよね? そう思いながら。

「はんかくせえ(間抜けな)こと言うな、男のダンサーだっているべ。ほら、オラの真似してくねくねシてみろ。この腰つきをマスターすれば、男なんてイチコロだべ」

「たしかこれって、アラビアンナイトみたいなほっそい美女が踊る、あやしいやつでしょ! ポッチャリちんちくりんのあたしなんか、ガラじゃないわよ」

「知ってっか? ベリーダンスっつーのはそもそも腹踊りって意味で、本来、女の体の丸さやふくよかさを前面に押し出したもんなんだ。いろっぺー成熟した女の存在を表現するための踊りで、本場じゃ、アラフォーの踊り手がほとんどだぁ。
いいか、自信をもっておめーの女の魅力さ振りまきゃいい、この立派な腹でな、わっはっは。
まあ今はなんも考えんで、楽しく踊ってみれ、ホレ」

「こ、こう?」

「あっはっは、まるでタコだな。相変わらずなまらおもしれーな、おめえは」

蝶ミーシャと夢中で踊るうち、いつの間にかびしょ濡れだったエプロンドレスが、アイロンを当て直したように、きれいに乾いていました。


「そうだっ、あたしシャルル……じゃないわね今は。ウサギを探してるのよ、二本足でしゃべって立って時計を持ってるやつ。あんた見なかった?」

「ああ、白ウサギだな、さっき慌ててお城の方に走って行ったべ」

蝶ミーシャは言いながら、水パイプでくいと方向を示しました。



「ありがと、あたし行くね。……でもやっぱりもう少し、ウエスト細くなりたいわよ、うっうっう」

「仕方ねぇな、じゃあホレ、これをやる。こっちから食えば、細っこい腰になるべ。したっけなぁ!」

渡された怪しげなキノコを大切にポケットに入れ、マリナは勢い良く葉っぱを飛び下りました。



「あっ、ミーシャ! 綺麗になったんだから、標準語しゃべんなさいよ。それとカバちゃん大事にしてあげてね!」

振り返り頭上の葉っぱに向けてそう叫ぶと、パイプの煙が『OK』の形で、プカプカと空へ上っていきました。
意気揚々と歩き出したアリスマリナは、そういえばと、貰ったキノコを取り出します。



「あっ、やっぱり! キノコって丸いじゃないのよ、いったいどこが”こっち”なのよぉっ、アホミーシャいもむし! フライにして食ってやりゃよかったわ」

いもむしは世界的にも優秀なタンパク源ですものね。
今頃くしゃみをしているだろう美貌を思い出しながら、薄暗い森へと足を踏み入れます。















しばらく行くと、大きな木の根本に出くわし、そこから何本もの道が別れているではありませんか。
しかも付いている標識はめちゃくちゃ。
上へ下へ、ななめに後ろに。
一体どっちに行けば、お城へ行けるのでしょう。
彼女は不安な面持ちで、標識を睨みました。

するといきなり首元をゾロっと撫でられ、アリスマリナは飛び上がりました。


「〽迷子の迷子の子豚ちゃん、あなたのお家はどこですか」


慌てて樹上を見上げると、たっぷりとした艶やかな毛皮をまとった素晴らしいスタイルの猫が、しなやかに木にもたれかかっています。

大きなしっぽが垂れて、ふっさふっさと揺れています。

このしっぽが、首を撫でたのでしょう。

見ると自分のヒゲを器用に伸ばし、まるでバイオリンを弾くように、美しいメロディを奏でています。



「〽池田さんちのマリナちゃん、いっつもほんとに変よ、どうしたのーかーな~」



皮肉げなニヤニヤ笑いを浮かべ、からかうように歌い続ける悪友の姿に苛立ちながら、アリスマリナは声を荒らげました。



「変はあんたよっ、チェシャ猫薫! 昭和の懐メロ歌って遊んでないで、お城への道を教えてちょうだいっ」

「アッチだよ、いや、こっちだった。おっと待て待て、それは昨日まで、今日はソッチへ行くといい」

「い、いいかげん~」

「百川海に朝す。アーンド、すべての道はローマに通ず。汝、迷うなかれ、己の信じた道をゆけっ」

「はあ? あたしが行きたいのはローマじゃなくて、お・し・ろ! 白ウサギを探してるのよ」

「はん、ウサギなら茶会に行くって、飛んでいったぜ」

「ホント~? あんたがそういう笑い方する時って、たいていなんかあるのよね」



胡散臭そうに腕組をしたアリスマリナを、ねめつけるように見下ろしながら、その美しい口角を、キュイっと上げ、シニカルに微笑みます。



「失敬な。ご存知、この美しいあたしの、これがいつもの顔さ。

そして猫は笑わない。笑わない猫、    最後に残るは、  猫のない、     笑い



ふいに、大きなしっぽで空気を撫でるように優雅に一回転させると、チェシャ猫薫の姿が消え、薔薇の花びら型の口元だけが残り、ニヤニヤを浮かべながら空中に漂っています。

「ヒイッ!?」

(帽子屋の茶会は気をつけろよ、いつも祝うヤツを探してる……)

フワフワと漂うニヤニヤ唇は、ある道へと吸い込まれて、煙のように消えました。





「相変わらず人をくったヤツよね、薫ってば。でも、信じた道を進め、か、うんっ。
さあてエッチ…! じゃなかった、シャルルっ、ふんづかまえてやるから、耳揃えて待ってなさいよおっ」





調子っぱずれの歌をうたいながら、アリスマリナはニヤニヤ笑いながら、陽気にその道を歩いていきます。

そう、チェシャ猫薫の笑い、そのままに。




後編へ☆

 




いつも(*´Д`)ハァハァのきゃわういマリナちゃんをありがとう、しばさん!!
またしても今回、萌モエきゅん☆な(笑)ロリアリス仕様のマリナちゃんを
ツイッターで見せていただき、ぷるの萌臨界点突破(爆笑)した次第でございますww
ぷるはマリナちゃんには目がございません。。。!!!キャワワワワ///
この話は、それで誕生したようなもんなんざんすよオクサマっっ///!!
あのさ、ゼツミョーなんだよ、あのスカート丈がさっ!!!
キャワワだよアリスマリナのふとももぉぉあぁぁぁ(;゚∀゚)=3ハァハァ
シャルルにペロペロされてmgmgさればいいよ!!!(笑)
しかしいつになったらモグモグされるのかwww
欲求不満のマリナちゃんもまた可愛いのだよ明智くん!!!♪ ←

本当に本当にありがとうです、しばさんっ!!ヽ(=´▽`=)ノ


ぷるの頭ン中のジャングルグルそのままのようなアブナイ物語ですが(笑)
楽しんでいただければ、サイワイです♪

これをもちまして、2015年シャルルのお誕生日記念とかえさせてイタダキマス!
お誕生日おめでとうシャルル、貴方の幸せと解放を、心から祈っています





拍手いただけるとガンバレます( ´∀`)

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