2015/06/16

ADULT FAIRY TAIL Act.6-1

~6幕(シャルル誕生日スペシャル鏡編1)
【鏡よカガミ、鏡さん、世界で一番「 」なのは、だあれ?】
5幕←  →6-2幕(地下)

(※このお話はADULT FAIRY TAIL Act.5の内容を受けています。
先にそちらを読むことをオススメします)


シャルルの誕生日、深夜ーーー






Toc Toc!(コンコン)



「……マリナ、もう入ってもいいか?」

(まだ~、もうちょっと待ってなさいよっ)






半時間後ーーー

「いい加減顔を見せてほしいんだがな。
誕生日にこれはあんまりだぜ、ma cherie(マ・シェリ/奥さん)」

ガシャーン!ガタッ、ガラガラ!

(ギャッ、ちょ、ちょっとだけ、あとちょっとだけ~! お願いシャルルっ)




Pff……(ため息)





四半時間後ーーー

「具合でも悪いんじゃないのか、マリ」

(ン、ほんらことナイアイ! らいりょーぶらから、まっへへ~あけらいれよ!)

「おい、ちゃんと喋れてないぞ、本当に大丈夫なのか?」




シーン




Pffffffffff……(重いため息)






また半時間後ーーー


カチャ……




チーズ騒ぎからひと休憩したふたりは、改めて彼の誕生日を祝うべく、マリナ主催のバースデーパーティをすることになっていました。

誕生日会ーーーこのイベントに際しては、寂しいことではありますが、彼にはあまり感慨がありません。(リセ時代にただ一度、唯一の友達に祝ってもらった以外には)

幼い頃から、形ばかりの祝福を浴びるように貰っても、無駄に消費される笑顔の群れに囲まれても、彼の心の琴線は、まったく響きませんでした。


しかし今は違います。

世界で一番大事にしたい、そんな愛しい女の子がくれるただひとつのおめでとうが、彼を初めてあたたかく包み、くすぐったいような幸福をもたらしてくれるからです。




今日はその恩恵を存分に受けるはずだったのにーーー彼女は会の宣言をした後、隣室へとこもり、堅くドアを閉ざしてしまったのです。
せっかくの誕生日に、こんな無体を強いられて、彼が何をしたというのでしょう。
待ち望んでいたあのときめくような胸の高ぶりは遠く去り、もはや苛立ちが臨界点を突破しそうなシャルルの待つ部屋のドアが、今、やっと開きます。

天の岩戸という単語が、その優秀な頭脳にすぐさま浮かびましたが、あまりにも神経が尖りすぎて、思いついた事自体にまた腹がたちました。


でも、キィ、と開きかけたドアが緩やかに揺れていますが、彼女の姿は見えません。


尊大にソファーにそり返っていた彼ですが、その辛抱や忍耐を報いてくれる彼女の謝罪や感謝は、どうやらなさそうだと判断すると、重い吐息を吐き出し、渋々立ち上がりました。

芯は冷えきって、文句を言ってこの割り切れない気持ちの解消を計る方法では、収拾がつかなくなっていることを、彼はうっすら感じ取っています。

ただ、ただ彼女のそばに居たかっただけなのに。

それでも彼女の意志を尊重しようと、ぎりぎり、努力したのです。
よほどの理由がない限り、他人に譲歩することなどしてこなかった彼にしてみれば、これは大変な進歩かもしれません。
ひとえに、愛しいマリナ、その人の為だからです。




さて、その彼女は一体どんな理由があって、彼をここまで痛めつけ苦しめたのでしょう……?














シャルルは、ゆっくりと歩を進め、その部屋に入りました。

まず、彼女の愛と祝福を感じるようなテーブルセッティングが、目に飛び込んできます。
魔法の館のご馳走は、どれだけ時間が経っても冷めません。
心がほっとするような湯気を上げ、素晴らしい料理がところ狭しと並ぶなかに、彼女が丹精込めて描いてくれたのであろう、彼の似顔絵や、手作りの楽しげな飾り付けがあることに、彼の心がほのかに緩みます。

しかし、肝心の彼女の姿がありません。

こんなご馳走を前にして、食欲の権化である彼女の影も形もないなんて、異様とすら思えます。
そして、シャルルの素晴らしい洞察力と推理力は、いつも正しいのです。





ーーー何やら、密やかな音が空気を揺るがしています。これはーーー

泣き声?





広大な続きの間に視線を巡らせると、部屋のすみにあるコクシグル社製のような可愛らしい衝立の向こうに、影が見えます。
織り込みラタンを透かして、小さな影が、肩を震わせているのです。


「……マリナ?」

「っ、ちょ、まっ…っ、こ、ないでシャルルっ」


あれだけ耐えて、この上まだ耐えろと?

ーーー今彼の横顔を見る者は、心底震え上がることでしょう。
凄絶な苛立ちの炎に彩られたその頬を上げ、すらりと伸びた長い足で、彼は音もなく近寄ります。
躊躇なく衝立を回りこむと、ロココ風の豪奢なレリーフを施した、3面もの鏡を擁した大きなドレッサーの前に座る、マリナが見えました。
しかし、彼女は一向にこちらを向きません。

そして一目でその異様さが判るほど、彼女の周囲は荒れ果てていました。
脱ぎ散らかしたドレス類、散らばる化粧品や美容パック、倒れた香水瓶。

何かおかしい。

彼の方を見ようともせず、なぜか彼女は、巨大な鏡を食い入るように見つめています。
涙にぬれた頬に流れたマスカラが、淋しげな道化師のメイクのように、マリナを飾っています。

「マリナ、……マリナ!」

はっとして振り向いた小さな肩をまた引いて、彼女はシャルルから顔を背けました。

「まだ支度、終わってないの……っ、みっともないから見な」



突然マリナの向こうの鏡が、妖しく、光ります。



ふたりは身体を強ばらせて、その光に見入りました。
鏡の表面に浮かんだ油膜が禍々しく揺らめき、そんなふたりを嘲笑うように、様々に姿を変えていきます。

やがて、すらりと長く……白い手足が、見覚えのある白金の髪の隙間を、楽しげに泳ぐ映像が見えてきました。
仄暗いシーツに散らばる白金の髪を、なぶるように淫靡に弄ぶ、女の姿がそこにあったのです。

「!?」

一瞬のうち、その光景は影となって溶け、どこかの街が映ります。
そこには、まるでモード誌から抜け出たような完璧な男女が、颯爽と歩いています。
男ならば誰もが求婚したくなるような美しい女性をスマートにエスコートしているのは、今この場にいるはずの彼ーーーシャルル・ドゥ・アルディでした。
その様は、見ているこちらが視線を背けてしまいそうなほど情熱的で……まるでタンゴのようにぴたりと腰を寄せ合い、路地裏へ消えていきます。

ふいにその映像が崩れ、次に浮かび上がったものは、細く官能的な肢体に手を回す、シャルルでした。
柳のように儚いシルエットにその手を這わせ、シャルルは豪華に波打つ金の髪に、口づけています。
煙のようにその影はまた姿を変え、ふいに、鍛え上げられた背中が浮かび上がります。
しかし彼は、一人ではありませんでした。
美しい漆黒の髪の女性を、その逞しい腕で折れるほど抱きしめて、まるで血の色のような唇に、今にもキスをーーー



「ーーーイヤっ!!」



声がはじけた直後、その幻は消えさり、辺りには変わらぬ静寂が戻ります。
しかし拒絶の声を上げたはずのマリナは、愕然とドレッサーチェアから立ち上がり、正面の大きな鏡に、とりすがったのです。



「あ……、も、もっと見せてっ! シャルルは、どんな女の子なら喜ぶの!?」

「マリナ?」

「どんなドレスで、どんな髪型で、どんなお化粧したらいいの!?」



明らかに常軌を逸したその様子に、シャルルはこの女の子が本当のマリナか確かめるために、あの儀式をしました。
素早く片腕をさらうと、呪いの傷跡を合わせます。

「っ、きゃあぁ!」

数日前にした時と同じ、甘苦しい電撃がふたりの背を貫きます。
彼女は、本物のようです。ということは、

何かの魔に、憑かれたのかもしれない。

シャルルはこめかみをギリッと動かしました。
深く一呼吸し心身を落ち着けて、ゆっくりと口を開きます。

「ーーー君の、知りたいことは、そんな事か?」

ドレッサーにくたりと体を預け、マリナは肩で苦しげに息をしながら、上気した頬を悔しげにゆがめました。

「そう、よ。だって、あんたの特別な日なのに、あんたに、最高に喜んで貰いたいのにっ、どれだけやっても、素材があたしじゃ、どんなに頑張っても綺麗とは程遠くて……! 
うっく、みっともないから、見ないでシャルル……っ」

自分の支度のひどさに、小さな身体をますます小さくして、マリナは下を向きました。

「ーーーやだね」

氷のように冷たく感情のない声で呟きながら、シャルルは容赦なくぐいと、マリナの顎を持ち上げました。
泣きはらした大きな目から、こすれたアイラインが文様のように、彼女の顔を汚しています。



「や……っ、お化粧、ぐしゃぐしゃなの……っ、これじゃ、綺麗なあんたに釣り合わない!」

「フ、ン……本当に、そうかな?」



そう言うとシャルルは、まるで本物のメイクアップアーティストのように、マリナの顔に、再び化粧を施します。
はじめは何が起こったかわからなかったマリナですが、極上のマッサージでも敵わないほどのあまりの心地よさに、いつの間にか、うっとりと身を預けていました。
まるでよどみのないその流れるような所作は、一流のコンダクターのようで、不協和音だらけだったバラバラの音が、壮大なオーケストラに変貌するかのごとくーーーマリナの姿を、みるみる整えていきます。
メイク、ヘア、香水、下着からコーディネートされたドレス、アクセサリー、靴に至るまでーーーしかし瞬きするほど、それは夢のように、あっという間に完成しました。

「ーーー出来上がりだ」

気後れして、それに映ることすら恥ずかしかったアンティークドレッサーの鏡面に、見たこともない、女の子がいます。

憂いを感じさせる大きな瞳は濡れた光をたたえ、輝くような真珠色の肌は、ビロードのように滑らかです。
官能的なゆるいカーブを描きながら艶やかに輝く、魅力的な髪。
女性らしさを押し出しながらも、可憐さを存分に振りまくドレス。
摘みたての苺のように、濡れた唇と同じ色の華奢なアクセサリーは、彼女の可愛らしい美しさを、憎らしいほど際立たせます。
程よいヒールで伸びた姿勢が、抱きしめずにはいられないその体の線を綺麗に演出して、シャンデリアからチリチリと零れ落ちる細かい光が、まるで祝福しているように彼女を輝かせています。


これは一体、誰でしょう。


鏡よ鏡、教えておくれ。


まるで銀幕から抜けだしてきた、夢の女の子のよう。


息をするのも忘れるほど、こんなに可憐な女の子、見たことがありません。
どんな国の王子でも、一目見たらきっと恋に落ちるでしょう。それほどに、その鏡に映る子は素敵でした。

「これで満足かい?」

「っ、言葉が、出ないわ。これ、誰……?」

「さあ、オレが教えてほしいくらいだね」

その声は、夢見心地だった気分に、一気に冷水をかけるような衝撃がありました。
皮肉を含んだ堅い声色は、久しく彼の口からは聞いたことのないもので……マリナは、自分の背後に立つ鏡の中の彼を、固唾をのんでじっと見つめました。
するとふっと身をかがめて、マリナの耳元で揺れる、神秘的な一粒真珠のイヤリングに唇を寄せると、シャルルは低い声で囁きました。

「『これは、どんな男でも振り返らずにはいられないね。素敵だよ、マリナ……』」

でも、ちっとも褒められているようには、感じませんでした。
マリナははっとします。
鏡の中に映るシャルルの美貌には暗い影が落ち、何かを推し量るようなその視線だけが、自分に注がれていることに。
熱く弾んでいた小さな胸の内に、ひゅうと、冷たい風が吹き抜けました。

「ーーーオレは、いつでも、君を変身させてやれるぜ。
形を整えることなど、オレには朝飯前だ。どんな辺境の女だろうと、一流コレクションのランウェイを歩かせてやる」

鉛を含んだように重々しく喋りながら、マリナの背後から片腕を出し、鏡に付きながら彼は問いかけます。




「君は 誰だ?」




ドク……ン

マリナの動揺が伝わったのか、まるで水面に波紋が広がるように、鏡が波立ちました。

「ここに映る君は、確かに美しい。誰もが目を奪われるだろう。
だが、オレが欲しいのは、こんなまやかしの君じゃ、ない」
急に、辺りが色あせて見えます。
「そんな薄っぺらいものに興味はないんだよ、まだわからない、マリナ?」
聞いたことのない程の堅く冷えたシャルルの声が、遠く聴こえます。
「それに、ーーーオレは、君の自尊心を満たすための、道具じゃないぜ」
「っ、ちがうっ!」
悲痛な哀しみを含んだマリナの叫び声が弾け、そして、シャルルの心を切り裂きます。
これは、憑依物の動揺を誘う、魔祓いでした。
しかし、マリナがそれと一体化している以上、彼女にひどい事を言っているのは、代わりありません。
皆さんはおわかりでしょうが、マリナは、ただ美しくなりたかったわけではありませんよね。
ただ、愛する人に喜んでもらいたい。

女の子であれば、誰もが必ず願う、至極当たり前の望みを、善くないものに、つけ込まれてしまっただけなのです。

シャルルは奥歯を噛み締めながら、怒りと悲しみを押し隠し、つとめて冷静に口を開きます。
「そう? でも結果としては、同じことだね。
マリナは、オレではなく、衆目にご執心だという事実が、浮き彫りになるだけだ」

ビシッ!

その時、二人を映す鏡の上部に鋭い亀裂が走り、大粒の涙をこぼしたマリナが、シャルルに掴みかかりました。
「うっ!」
そのありえない獣じみた力は、シャルルの首元を締め上げます。
小さなマリナのどこに、こんな力があるというのでしょう。
明らかに、魔の仕業だということが、証明されたのです。
ドレッサーの前で激しく揉み合うふたりを映した大きな鏡は、まるで喜ぶように、ゆらゆらとその身をくねらせました。
シャルルはそれを横目で見ながら、マリナの両腕をなんとかねじ伏せ、懐からあの銀剣を取り出そうとしました。

刹那、逡巡します。

鏡が魔の本体であることは間違いなさそうですが、攻撃することで、マリナが傷付かないとも限りません。
シャルルはそっとそれをホルダーにしまい直すと、暴れる小さな身体を、渾身の力で抱きしめました。
そしてマリナのイヤリングの真珠を口に含み、念を込めます。
彼の最も愛する、この世で唯一、有機生命に育まれるこの宝石は、彼の想いを取り込むに相応しい物だったからです。

ありったけの愛を込めて、シャルルはマリナの苺色の唇に覆い被さります。

小さな魔法の丸薬となった真珠は、彼の想いをのせて、マリナの身体に入り込み、熱く弾けてその祈りを伝えます。
ビクリと硬直したマリナの視線が、やがて、正気を取り戻していくのがわかりました。



『הזה הוא שלי(これはオレのものだ)』



力をぶつけるように低く囁いて、シャルルは匂い立つその柔らかい首筋に歯を立て、きつく吸い上げました。
「あっ!」
その痕は毒を吸い出したように、赤を通り越し、黒薔薇の花弁のように濃い鬱血を残します。
がくりと意識を失ったマリナが、彼の腕の中に倒れ込み、辺りに静寂が訪れました。

「まったく……なんて楽しいバースデーだ」

ドレッサーチェアにどさりと座り込み、マリナの熱を確かめるようにしっかりとその腕に抱き直しながら、吐息をついたシャルルはそう、ひとりごちました。



「うう、……ん、っ、あたし……っ!」



つけまつげが外れても大きな目なマリナは、必死にそれをしばたかせながら、顔を上げました。
暗い影に覆われていた顔色は生気をおび、血色を取り戻しましたが、彼の顔を見つめる度、みるみる青くなっていきます。

「あた、し! どうしようっ、ごめ…、シャル……っ」

「大丈夫」

安堵の吐息をつきながら、シャルルはあやすようにマリナを上向かせると、静かに唇を寄せました。
整っていた可愛らしいヘアスタイルも、今は見る影もありません。
シャルルはそれでも、そのもしゃもしゃの髪に愛おしそうに手を差し入れ、宝物のように抱きしめます。

やがてこぼれだしたマリナの静かな嗚咽が、シャルルの唇に吸い込まれていきます。

大きな手に、優しく背中を撫で下ろされ……唇を離したマリナは、あまりの情けなさに彼の広い胸で、わんわんと泣き声を上げました。

「あた、あたしっ、そんなつもりなかったのっ。
だけど鏡に映ったあんたと美女たちのからみを見ちゃったらっ、もうもう、頭に血がのぼっちゃって……!」
「だからひとりになるなって、あれほど言っただろう」
「アレ……ほんと!? あ、ウソッ、知りたくない!! でも……っ、あ、ううんっ、やっぱいいっ、言わないで~っ」
「フ、忙しい子だねまったく。ーーー君はバカだけど」
「ナンですってえ!」
「恋をするには、賢すぎる」

長く繊細な指で鼻の頭をはじかれて、彼女はうっと、言葉に詰まりました。
青灰の瞳が、零れそうなほどの憂いと優しさをたたえて、穏やかな光を浮かべています。

「見かけも中身も頭でっかちなオレの恋人。君が見るべきは鏡のオレじゃなくてーーーこうして」

まるで、取り込んでしまいたいと願っているような、そんな彼の抱擁の中ーーー瞳に浮かんだ光が、マリナに零れ落ちます。
触れてはならない聖遺物に近づくように、シャルルはそっとそのふくよかな頬を、包み込みました。



「こうして、触れられるオレじゃ、ないのか?」



瞬間、弾けるような熱が胸いっぱいに広がり、大きな涙が、ぼろりとマリナの目から溢れます。
「ごめんね、しゃるるぅ……っ」

でも彼は、マリナ以上に心のなかで彼女に謝っていました。

ある目的のために、彼女に辛抱を強いていた結果が、この事態を招いたとすると、彼は計算間違いをしたということです。
魔法の館という不確定要素は、彼の優れた頭脳でも、全ては推し量れないものでした。
きつくきつく、小さな身体を抱きしめて、彼はこの館とまた相対する覚悟を決めました。そして悟ります。

もう、我慢も、限界にきていることを。














しんと静まり返った部屋の中、シャルルはマリナを抱きかかえたままドレッサーチェアに座り、目の前のまだ魔が宿っているだろう鏡を、彼女の背中越しに凝視していました。

フツフツと、煮えたぎるような怒りが、湧き出してきているのを感じます。

この怒りを、彼女にぶつけるのは筋が違いますーーーでも。

もしかしたら、彼も何らかの影響を受けてしまっているかもしれません。いつもより感情の制御がしづらい事を、彼はうっすら感じ取っていました。

端正な唇をきつく噛み締めながら、彼は自分が何者かを、注意深く心に刻みました。

そして意を決し、腕の中の大切な想い人をそっと起こし、視線を合わせます。



「落ち着いた…?」
「ん。うう、メイク」
「ああ……フフ、まるで狸だな」
「たヌっ!? なんですってえっ」
「でもこの狸は、嫌いじゃない」



耳元に落とされた言葉とキスは、まるでわたあめのように甘く、ふわふわとした幸せな気持ちを、マリナにくれました。
そのくすぐったそうな笑顔に、彼の胸はときめきます。

「メイクなんて関係ない。オレの前で笑うマリナ、そんな君に、オレはいつも夢中だ。ああ、これが、『恋しちゃってルンルン』ってやつか?」

「ぷ、シャルルが言うとヘン! あっはっは」

二人だけの懐かしい言葉に、顔がほころびます。



「ねえマリナ、さっき寝ぼけた時に君、妙なことを言っていたね。オレが兎になったとか、何とか」



そう言うと、彼女は興奮したように喋りだしました。
おそらく、もうここから、屋敷の魔法は作用していたのでしょう。
シャルルは苦笑いしながら、少し意地悪そうに囁きます。

「なぜ、オレが兎に変化して見えたのか、わかるかい?」

「え、だから不思議の国のアリスのパロディで……違うの?」

「兎はねーーー性欲の象徴なんだよ。
バニーガールしかり、男なら誰もが一度は手にする、ヒューヘフナーのPLAYBOYのシンボルしかり」

瞬間、腕の中で絶句して、目を白黒させながら硬直するマリナが、可笑しくてたまりませんでした。


「……っ、しゃ、シャッ、しゃるるっもっ、そ、そんなの、読むのぉ!?!?


「ご想像におまかせするよ。……もしそうなら、そんなオレは、どう?」


髪をかきあげ、悩ましげに笑いながら覗きこんだシャルルをぐいっと押し戻し、ジタバタと暴れ彼女は叫びました。


「ヤダーっ! っ、けど、…ちょっと、…ドキドキ、する……///
や、やっぱりナシナシなしっ、ヤダぁ!! う、うう」


今度は、彼が肩をふるわせて天を仰ぎました。

彼女といると、自分の知らない自分が、どんどん出てきます。
それはなんとも心地良く、彼に生きる楽しさを存分に教えてくれるのです。
複雑な顔でむくれている彼女にキスしながら、それでも彼は、暗い奥底からこみ上げる衝動に、身体を焼かれ続けていました。
可愛いその笑顔を守りたい、そう思う反面、自分の腕の中で、壊れるほどの泣き顔も、見たい。
その時、薄く唇を舐めるそんな彼に、彼女は気付きませんでした。

「食物連鎖の底辺にいるせいか、兎の繁殖力はすごくてね。
多産の上に繁殖期がない、多重妊娠も可能。雌雄共に、子孫を残す為だけに昼夜を問わず、行為に励む精力の強さ」

「ええ!? 見た目あんなにかわいいのにサギよぉ! 
わーん、もうウサギさわれな、ううん、食べれなくなるじゃないっ!」

「なぜ? 生物として全く正直な種じゃないかーーーさて、もう一度言おうか。

オレがなぜ、兎に見えたのか」



その言葉に、上目遣いで再び不思議そうに彼を見上げた彼女に、焦げそうなほど熱い視線で応え、情熱を押しこめたかすれる声で、告白します。







「君とやりたくてやりたくてーーー



やりたくて、堪らなかったからかもな」








Act.6-2へ続く
※裏ブログへ飛びます











※この作品は、リクエストのお題を兼ねてます☆今更ですがゴメンねYさんwww( ;∀;)

ハイッ、LPDではまだシャルルのお誕生日をお祝いしておりますよ~~~ワッハッハ;;;;;
アリス編の回収をちょこっとしたりw(ウサギLOVEの方、ごめんちゃいね;;)
マリナちゃんが清水から飛んじゃう感じ?の一幕になりますw
そして完全にR20デスよwww シャルマリももはや別人チックなので///気をつけて読んでクダサイね!!マジで!!!ヽ(`▽´)/ タダのバカップルかもだから(;´∀`)
でもエロ本読むシャルルとか、もう想像の限界を越えますね!!!!!あっはっは;;
ぷるは軽く タヒねる ヨ♪。゚(゚´Д`゚)゚。

全3章( ;∀;)ま、また長くなりすぎちゃったゴメンナサイ
当然この先は、らまんでみにゅい行きデスヨ♪ 今へんしゅーちゅー\(^o^)/




拍手いただけると鼻血デます♪怖( ´∀`)



2 件のコメント:

ナツキ さんのコメント...

萌転げました・・・ありがとございますありがとございます

いつもこちらで回復させていただいてます。ぷるぷる様のお話が大好きです。

ぷるぷる さんのコメント...

うぉう/// 
瞬速のコメ、コチラこそありがとうございますありがとうございます・・・!!( ;∀;)

ぷるもナツキさんに回復させてもらいましたよほ~_|\○_ ヒャッ ε= \_○ノ ホーウ!!! 
だっ///(*ノωノ)  こ、告白!!?/// あざます ぽ///