2013/02/01

Mimi Eden(ミミエデン)~小さな楽園




Mimi Eden





早くっ、いしょがないと(急がないと)、また大天使さまにお目玉くらうでしゅよぉ!
ああ、こんな時に大事なラッパ落とすなんて、ボクってなんておドジさんでしょうねぇ!?
見渡した外界は、いつもよりずっとキラキラと輝いていて、ラッパの光も溶け込んじゃってまるで見えないんでしゅよ、困りました~。
ボク個人としては、この時期は忙しくてもとっても幸せな気分になれるのでしゅき(好き)なのですが、ああ、弱りましたっ。







「さあっ、行くの行かないのっ。
今日はあたしの望み通りにって言った、シャルル・ドゥ・アルディの言葉はそんなに軽いわけ!?」



うわ、やかましい声でしゅねえ、耳がきーんてしたでしゅよ。
あるボロい建物の上にさしかかった時に、すんごく耳ざわりな騒音が、ボクの耳に届いたのでしゅ。
なんてお下品なお声でしょうっ!
あっ、もしかしたらこんな人に拾われて、悪いコトになんか使われてしまったら、お目玉どころじゃ済まなくなってしまいますぅっ、ハワワワワ、確かめなくっちゃっ。
ボクは暮れかけた外界の闇をかき分けて、その建物に入りました。
とたんに目の前にヌンとでっかいヘンなお顔が!!
きゃあああっ、けがれてしまいますぅっ。
とっさにお目々を閉じてしまったのですが、よくよく見ると、きったない格好はしていますが、まん丸いガラスをかけた女の子でした・・・失礼いたしました。
「はっきりしなさいよっ! 時間がもったいないでしょぉっ」
深々、ちゃんと謝ったボクのところに、ブンと振り回された女の子の手が飛んできて、あやうくぶっ飛ばされちゃうところでしたぁ! な、なんておっかない子でしゅかっ、真っ赤な顔でキーキー怒鳴って、まるでご飯をお預けされたおサルさんでしゅよっ。
せっかくの優しさが満ち溢れる素敵な時期に、レディはこんなことしちゃイケナイですぅ!
ボクは天使として職務をまっとうしようと、その凶暴おサル子ちゃんをいさめようと、近づきました。
しゅると!!

「ーーー行っても構わない、と何度も言っているだろう。ただ君の言う条件が気に食わない」

お部屋の奥で、お椅子にゆったりと腰掛けてむじゅかしいお顔で腕組をしている誰かが、いらっしゃったのでしゅ。
・・・ボクは目を疑いました。

ウ、ウリエルしゃまーーーーー!! 

どどど、どうしてこんなキタナイおサルさんと一緒にいらっしゃるのでしゅかああああ!!!
ハッ、もしかしてもうボクの失敗が天界に届いて、お仕置きのために下天していらっしゃったのでは・・・!?
ボクはとっても冷や汗ダラダラで硬直したのでしゅが、ウリエル様は一向にボクをお叱りにはなりません。
まるで気づいていらっしゃらないように・・・あれっ!?
いつものおっかない炎の神剣をお持ちでないでしゅね・・・はぁあああっ、違いましたぁ! 
この方は人間でしゅねえ!
ほわ~大天使のウリエル様によく似てるでしゅね~、なんてお綺麗な方でしょう!
おっかないお顔するとこまでなんてソックリなのでしょう。
「イヤなのよっ、あんたと一緒に歩くとギャラリーできちゃうし、写真バンバン撮られるし、逃げ回んなきゃなんないしっ。
追っかけられるのは編集にだけで充分よ!」
「それとこれとは関係ないだろう。だから貸し切ればいいと、何度も」
「それもやだっ。あたしはフツーの雰囲気で、みんなの中で楽しみながら、あんたと遊びたいのよっ」
一体なんのお話してるんでしゅかね?
ケンカ、してるわけでもなさそうでしゅねえ。
ボクはこの変わったお二人に興味がでて、それぞれを見比べながら、じっとお話を聞いていました。
「ね、だからホンのちょっと、目立たないようにしてくれればいいのよ」
「うっとうしいし、面倒だ。フランスならいざしらず、なぜ日本でそんなことしなければならないんだ」
「あんたが超目立つ美人だからよっ!」
「それは女性に使う容姿表現だ、十人並みマリナちゃん」
「うるさぁい! とにかくあたしはゆっくり遊びたいのっ。せっかく原稿上がって、珍しくご褒美でナイトパークインチケットもらったのに」
「もらった? オレにはふんだくったようにしか見えなかったがね」
「しゅっ、取材も兼ねて行くんだったらいいって、言ってたじゃないっ・・・言ってたわよね、ね?」
は~ってふかぁいため息をついて、下を向いちゃったウリエル様。
ぷ、なんだか面白いでしゅね、この二人。
もうちょっと見ていくでしゅよ!
「だからっ、ホラ、これつけて!」
おサルさんは嬉々として、足元の紙袋から何やら取り出して、テーブルの上に、ウリエル様の真ん前に置きました。
うわっ、なんでしゅかこの得体のしれない毛玉はっ!? 
怖いでしゅこのおサルさんっ、狩りの獲物でもジマンしてるんでしゅか!?
ボクがビビっていると、ウリエル様が渋々それに視線を投げました。
よく見るとそれは、黒い色のニセモノの髪の毛だったのでしゅ。外界で言うところの、カツラというやつでしゅね。
なんでこんなモノだしたんでしゅかねえ?
「せめてそのピカピカの頭だけでも隠してくれれば、ちょっとは自由に動けると思うのよ~。
ね、お願~~いっ、ゆっくりあんたと遊びたいのよシャルルぅ!」
・・・ウリエル様ぁ、おサルさん必死で頼んでましゅよ。せっかくの時期でしゅから、慈悲の御心で願いを聞いてあげてもよろしいのでは? 
このおサルは、普段きっとミジメな生活を強いられていると思うのでしゅよ。
こんな時こそ、我らが救いを授けてあげねば!
ボクはかたわらに寄り添い、おサルさんと一緒に、ウリエル様にお願いしました。
ウリエル様はぎゅっと瞳を閉じたまま、頬杖をついてむっつりと考えこんでいらっしゃいましたが、やがてそのカツラにお手を伸ばされたのです!
さすがでしゅっ、ありがとうございましゅ~ウリエル様っ。
おサルさんも飛び上がってはしゃいでおります、良かったでしゅねっ、ウリエル様の広い御心に感謝しゅるんでしゅよ!
ウリエル様は席を立って、鏡のあるところへ向かわれました。
おサルさんもお出かけの用意をしようと、お隣の部屋へバタバタと走って行きましたよ。
しかし人間は不便でしゅねぇ、姿を変えるのにも一苦労いるとは。
これは主の言われるように、ボクたちが見守ってあげなきゃいけないのもうなずけますぅ。
ボクが一人で主の偉業をかみしめていると、ちょこっとだけマシな格好になったおサルさんが、再びバタバタと戻ってきました。
まったく、もうちょっと落ち着いて行動しゅることができないのでしゅかねぇ、仮にもレディなんでしゅから。
ボクがぶつぶつ言う真後ろに、ウリエル様の立つ気配がしました。
と、目の前のおサルさんが、手荷物をボトボト床にこぼしながら、お顔を真っ赤にしてお口をバカみたいにぱかーんと開けていらっしゃいます。
その視線は、ボクを通り越して後ろへと注がれていましゅ。
それをたどるように振り返るとーーー黒髪、黒い瞳に変身された、とっても神秘的なウリエル様がいらっしゃったのでしゅよ!!!
「ぎゃあああっ、ウソッ! シャルルだけどっ、しゃ、しゃるるじゃ、なーーーーいっ!! あはははは!」
おサルさんは狂ったみたいに叫んで、ピョンピョン飛び跳ねながら、そんな黒ウリエル様の周りを興奮してぐるぐる回っています。
でもお気持ちわかりましゅよっ、な、なんてしゅてき(素敵)なのでしょう!
彫りの深い高貴なお顔立ちが、艶やかな黒い髪に彩られて、なんともイケナイ危険な魅力をかもしだしているのですっ。
雪のように透き通った白い肌、それに反しゅる、深い闇のような漆黒の黒髪が奏でる、人間界の造形美とは思えないこんとらしゅと!(コントラスト)
薄く整ったオレンジの唇は、それだけでげいじゅちゅひん(芸術品)のようで、そこから発しぇられる澄んだテノールのお声は、耳を傾けじゅにはいられましぇん。
こんな方に誘われてしまったら、ぼ、ボクも堕天し・・・アワワワ! いけましぇんっ、しっかりせねば!
ボクが赤くなって青くなっていると、おサルさんがバラバラっと紙を束ねた大きな用紙をめくり、そんなウリエル様の艶姿を一心不乱に描き写していましゅ。
目は血走って、あーあお口がまた開いていましゅよ、だらしない。
「ちょ、ちょっとシャルル、そういえばなんで目まで黒いの!?あたしカラーコンタクトまでは用意してないわよ」
「ーーー備えあれば憂いなし、だろ」
ちょっとばつが悪そうにつぶやいて、だけど透き通ったうちゅくしいカーブを描くほっぺたが、ほんのり染まっておりましゅ!
ああっ、照れたウリエル様のご尊顔なんて、天地創造以来はじめて拝見いたしましゅーっ。
む、胸がドキドキししゅぎて壊れそうでしゅよ! これは兄弟たちに自慢せねばっ。
ボクがほおっと惚けている横で、おサルさんがガタンとお椅子を蹴って立ち上がると、そんなウリエル様のもとへ駆け寄っていかれたのでしゅ。
「もしかして、いつも持ち歩いてくれてたの・・・黒カラコン」
「・・・色々想定した結果、ね。面倒は最小限で済ますに越したことはな・・・」
ひゃああ!
ボクは目を閉じ、あわててお二人に背を向けましたっ。
おサルさんは椅子によじ登り、背の高いウリエル様の麗しい唇に、キしゅなさっていたのですぅうっ。
背の高さが違いすぎるお二人なので、まるでぶら下がっていらっしゃるような無茶な体勢でしゅが、やがてウリエル様が彼女を抱きかかえて目の前まで引き上げ、お二人はいつ果てるともなく、ずーっとキしゅしてらっしゃいますーっ。
あんまり熱烈しゅぎて、ボクには毒だったので、いたたまれなくなってついつい、鳴るはずのないボロっちい壁掛け時計を、鳴らしてしまいました!
わーん、天使長様ご免なさいっ。
「わっ、こんな時間! 行きましょうシャルルっ」
「ーーーおかしいだろ、なぜ鳴ったんだあの時計」
「いーわよそんなことどうでもっ、早くっ」
訝しげに鋭く辺りに視線を配るウリエル様の敏感さにドキドキしつつ、おサルさんの勢いに負けて、お二人は部屋を飛び出して行かれました。
ほ。
ーーーと、胸をなで下ろしたのもつかの間、あああああっ、おサルさん肝心のチケットを置きっぱなしにしていらっしゃいますぅ!
ボクは、こっくんと息をのみました。
ボクだってヒマな訳ではありましぇん、大事なラッパ探しという一大事を抱えているのでしゅ。
知るもんでしゅか、と一度は飛び上がったものの・・・ミカエル様の厳しくも優しいお声が、その時蘇ってきたのでしゅ。
以前、任務を途中放棄してしまった時、なぜボクがこの任務を請け負うことになったのか、その必然と運命の妙、主の導きで関わることになった人々との絆をもう一度胸に思え、と、星の瞳で仰いました。
例えどんな数奇なきっかけでも、関わった限りはやり遂げよと、吹けば飛ぶようなボクごときささやかな存在にすら、気付いてお心をかけてくだしゃったのでしゅ。
ーーー申し訳ありませんでした、ミカエル様!
ボクは最後までやりましゅっ。きっとおサルさん困っていらっしゃいますよね、今参りましゅよ!
ボクはチケットをつかみ、全速力でお二人を追いました。
ややして、闇を切り裂いて疾走しゅる、黒ウリエル様の乗り物が見えてきました・・・しかし明らかに、人間界のルールをやぶる速さだと思うのでしゅが・・・いいのでしょうか。
ジッと目を凝らすと、やっぱりおサルさんがご自分の手荷物をひっくり返していましゅ。
あーあ、アナタもボクに劣らずおドジさんなんでしゅね。
ちょっと親近感がわいたボクは、手にしたアローにチケットをぺたんと貼り付けて、ギリギリと弓を引きしぼりました。
狙いを定めて・・・・・・
「あれー、あれぇ!? おっかしいわねぇ、確かにここに・・・入れたわよね、チケット!? ないないっ、どこにもナイじゃないのぉ!」
「出がけは考え事していたからオレは知らないぜ。いいじゃないか買えば」
「いやよぉっ、うち帰ってあったらまるっきり損になるじゃないっ。っかしいわねぇ・・・ギャッ!?」
「どうした!?」
「いったーっ、静電気かしら・・・今なんか手がビリッて・・・あ! あったーっ」
「・・・やれやれ、これでやっと静かに運転でき」
「あーっ!!」
「今度は何だ!」
「なんでぇ、バックに大穴開いてるぅ!」
シマッタ、ちょっと力みすぎてしまいました、へへ。
おサルさんが掲げた袋のおなかの部分に、大きな穴が開いているのが見えました。
ご、ごめんでしゅおサルさん。ああ、そんなガッカリしたお顔なされて、ボク、また失敗しちゃったのでしゅね、うう。
「だって、せっかくあんたに貰ったものなのに・・・」
小さくつぶやいて、おサルさんは胸に抱いた袋を撫でていましゅ。
ひえ~っ、ウリエル様の贈り物だったとはいざ知らず、お二人にご無礼をしてしまいました~。こんなんだから、ボクはいつまでたっても半人前なんでしゅね、反省しましゅ・・・。
ウリエル様は、ボクが大穴を開けてしまった袋をジロリと睨めつけて、後ろの空間に慎重そうに置きました。
そして闇をはじくような微笑みを浮かべられて、しょげているおサルさんの大きな頭を、片手で優しくいい子いい子しておりましゅ。
あ、おサルさん、笑いました。

・・・あれ、イイお顔でしゅねぇ。
慣れるとなかなか味のあるお顔で、しかもウリエル様のお隣で笑うととっても可愛く見えましゅ、不思議でしゅねぇ。

失敗も多いでしゅが、これでもボクは外界でのお仕事をたくさんこなして、たくさんの人達を見てきました。大抵の場合、こんなにも様子の違う人間は、利害がある場合はべちゅ(別)でしゅが、心が触れ合うようなおちゅきあいをしているところを見るのは稀でしゅ。
ボクはこんなにも違うお二人が、どうしてこんなに近く寄り添っておられるのか、ギモンを感じました。
これも主が、ボクに学べよとおっしゃっておられるのでしょうか。


ボクは黒ウリエル様の乗り物の上に腰掛けながら、主に問うように、すっかり暮れた外界の空を見上げておりました。













ーーーやがて、白い息を弾ませて人々が楽しげに集う、賑やかな場所へとやってきました。


うわっ、光の洪水でしゅ・・・天界のカテドラル(聖堂)には負けましゅが、華やかでとっても幸せな雰囲気が漂う場所でしゅ、誰もが楽しそうでしゅねぇ!

乗り物が止まると、おサルさんが待ち切れないとばかりに飛び出して、門へと駈け出して行きましゅ。
ああっ、ウリエル様を置いていかれてはダメでしゅよっ、と呼び止めようとすると、クルリと反転されて戻って来られると、ウリエル様の手をガッキと取られて、お二人連れ立って行かれました。
なんだ、おサルさん、意外とウリエル様のこと気にかけていらっしゃるのでしゅね、良かった!
ボクも幸せな気分になって、お二人のあとを追いました。

黒い頭にはなりましたが、やはり長身で並でないオーラをお持ちのウリエル様は、やはりチラチラと皆の視線を集め出しました。
あははっ、おサルさんが警戒したようにキーキー言ってらっしゃいましゅね。
確かにこれは気が気ではありましぇんね、でもダイジョウブでしゅよ、ウリエル様の視線は貴女ひとりしか追っていましぇん。
ああ、なんて瞳で見つめられているのでしょうね。こちらまで切なくなってしまいましゅよ、黒ウリエル様。
明らかにウリエル様の方が、人間界でいうところの羨望のマト的な存在であるにも関わらじゅ、肝心のご本人は、おサルさんただ一人を想っておられるのでしゅね。
混みあう人々の合間を窮屈そうに歩きながらも、ウリエル様は決しておサルさんの手を離そうとしましぇん。
あっ!! おサルさんがアイスくりーむ買ってるスキに、ウリエル様がギャルさんに囲まれちゃっておりますよっ、おサルさんっ、ウリエル様のピンチにニヤニヤ食べてる場合じゃないでしゅよお!
ああ、ホラ言わんこっちゃない、あっという間にできた人だかりで、もうウリエル様に届かなくなっちゃってるじゃないでしゅかあっ。
おおっ、ウリエル様、ギャルさんなんかまるで眼中なしでガッサガッサかき分けて、ひゃあっ、おサルさんを抱き上げましたっ。なんて凛々しいお姿! ギャルさんたちの悲鳴が小気味良いでしゅねぇ、爽快でしゅっ。
素早い身のこなしでウリエル様逃走っ、追うギャルさん群、ポカンのおサルさん!
おサルさんしっかりしてくだしゃいっ、まったくウリエル様も、なんでこんな方を気にかけられるのでしゅかねぇ、ボクにはまだ理解できしぇん。
ウリエル様は大きな回る鉄の輪の足元まできて、それにぶら下がるお部屋のひとつに飛び込まれました。
わあ、これはしゅてきな乗り物でしゅね! 
運命の輪に似ていましゅが、近寄りがたくなくきらびやかな星々を身にまとって、まるで銀河のようでしゅ、うっとり~。
ボクはお二人が入られたお部屋の上に座って、辺りを眺めました。するとオシリの下でおサルさんが盛大に笑う声が高らかに響いて、あやうくボクは落っこちるところでしたよ!
「あっはっは、あの子たちの顔見たぁ!? シャルルに言い寄ろうなんて、100年早いのよ!死体になってから来なさいってのっ、ね、シャルルっ」
「・・・・・・疲れた」
「それにしても黒髪にしてもダメねぇ、はじめの数分だけだったじゃない、ゆっくり歩けたの。・・・大丈夫? ごめんね」
反対側に座っていたおサルさんが心配そうにウリエル様を覗きこむと、ふいにその腕を引っ張り、あっという間にお膝にのせておしまいになり・・・ウリエル様はおサルさんを見つめて、満足そうに目を細めていらっしゃいます。
ひゃあなんてお色気なのでしょうっ、おサルさんの胸のどきどきが伝わって、ボクも苦しいったらありましぇん!
「ーーーやっと二人きりになれた。まったくこの寒さでこんなもの食べて。これのおかげで、オレはあやうく野獣の餌食になるところだったぜ」
「そうなっても、あたしが絶対に助けてあげるわよ!心配しないでっ」
「フフ、よく言うぜ。一番外側でピョンピョン飛び跳ねてただけじゃないか、このアイスを手放したくなかったからだろ。ああ、オレはこんなジャンクフード以下とは、哀れだな」
ウリエル様の強烈な皮肉に、おサルさんは赤いお顔で、気まずそうにアイスにかぶりついていましゅ。ていうか、いちゅまで食べてるんでしゅかっ。まったくウリエル様がお気の毒でしゅ!

「そんなに美味しい?」

「あったりまえよ。冬のアイスほど美味しいものはないわよっ。いえ、いつ食べてもアイスは美味しいけど」

「・・・オレよりも?」

「ンぐっ、なっ、ナニ言ってっ」

しゅるとウリエル様はその美頬を傾けられて、おサルさんの唇の端っこについてるアイシュを、ぺ、ペロリと舐め取られて~~~ひゃああ!

「ーーーフン、合成甘味料の雑味が最悪だな。今度もっと美味い本物の味を、貧乏舌のマリナちゃんに教えてやるよ」

闇の中でキラリと魅惑的に輝く黒い瞳のウリエル様は、とても意地悪そうに笑われて、おサルさんの腰をさらに強く引き寄せていましゅっ・・・ああ、ボクもう倒れそう~。
おサルさんも頭から湯気が出ちゃってましゅよっ、お手柔らかにウリエル様ぁ~~!
「へえ、気が効いてるじゃないか」
ウリエル様が尊大にお言いになって、天井を指さしていらっしゃいましゅ。
ドキッ、ボクのことじゃないでしゅよね!?
「なによコレ」
おサルさんの声によく見れば、まるで真珠のような白い実のついた常緑樹が、赤と緑のリボンで装飾され、天井から吊られてユラユラと揺れていましゅ。
「ギィ(Gui)だな。つまり、宿り木」
「ちょ・・・っ、ちょちょシャルルちょっ!!」
その時ニッコリと笑ったウリエル様は、堕天を誘う悪魔のように見えましたァ、ボ、ボクはその光景を忘れられる自信がありましぇん! 天界に帰ってから、本物のウリエル様になんとお声をかけたらよいかああああっ。
黒ウリエル様は強引におサルさんを上向かせ、強く強く抱きしめて、何度も何度も口づけを交わしておりましゅ。
う、ウリエル様ぁああっ、宿り木のキしゅは健康や幸せを願う神聖なものなのでしゅよっ。
こ、これはもはや慈しみや親愛のキしゅではない、情欲のーーーっ、あっ、食に対して貪欲なあのおサルさんが、アイシュを落としました! これはそれほどまでにシュゴい威力のようでしゅねっ。
あああっ、いけませんウリエル様、おサルさんのしゅかーとの中に手を差し入れられてはっ、ああああもう見ていられましぇんっ。
と、ボクがしばらく身を隠そうとお隣のゴンドラに飛び移ると、足元からものしゅごい悲鳴と、ギシギシとそのお部屋自体が揺れたのでしゅ!
ビックリして見ると、なんとあのギャルさんたちがウリエル様を追いかけて、お隣に乗り込んでいたのでしゅよ。
そしてあのキしゅを覗き見されて、ーーー絶叫、と。
ふとウリエル様たちのゴンドラを見ると、いち早くそれに気づいていらっしゃったウリエル様は、おサルさんをギャルさんたちの視線からかばうように体勢を変え、背中を向けさせました。
そしてご自分は、まるで地獄の9圏であるコキュートスに張る氷のごとく凍てついた視線で、無礼者たちを震え上がらせ、あげくにーーー!! 
だだだ、ダメでしゅーっ、天使であるボクの前でそそ、そんな無体で下品な仕草をぉおおお!!!



ウリエル様はなんと、ゆっくりとひ、左手の中指を立て、ーーーfu○k you・・・!



ぎゃああああああああああ!!

ええ、ボクも気づけば、ギャルさんたちと悲鳴の合唱を天高く轟かせておりました・・・アーメンハレルヤっ、主よお許しくださいませぇええっ。ボクはもう見ていられましぇーーーん!





一足先に地上に降り立ち、ボクは物陰でひっそりとお二人を待っていました。
やがてゴンドラがゆっくりと降りてきてドアが開きーーーあ、ああああ、かわいそうに! 
ウリエル様にいいようにあ、愛撫されてしまったおサルさんは、哀れなお人形みたいにぐったりと抱きかかえられ、あれっ、ガバっと起き上がりましたっ、あああ~っと、ウリエル様を殴ったああ! 
あははっ、負けていましぇんねおサルさんっ、だからこそ、お二人は一緒にいられるのかもしれましぇんっ。
ボクは胸がほっこりとワクワクして、踊り出したくなりました。
幸せそうでしゅね、楽しそうでしゅね、ボクはこのお二人がしゅきになってしまいましたよ!
主よ、しゅてきな出会いをありがとうございました。
お二人は仲良く手をおちゅなぎ(繋ぎ)になられて、ダンスを踊るように園内を楽しげに散歩なさっておられましゅ。
あっ、またウリエル様になにやら追手が! 
今度は何かの取材でしょうか、本格的な機械を持たれた方たちに囲まれて、マイクのようなものを向けられてしまっておりますっ。
あっ、今度はおサルさんが素早く動いて、なにやら機械についたコードを引っこ抜きました! 場が混乱した途端、ウリエル様の手を引いて、近くの施設に無事に緊急避難でしゅ。やりますね、おサルさん!
「はぁはぁ、もう大丈夫よね。ホラ、ちゃんと助けたでしょ!? 頼りないあんたをあたしが守ってあげなきゃね~シャルルちゃん」
「ーーーああそうか、頼りないオレはここでも強いマリナちゃんに守ってもらおう」
ニヤリとわらったウリエル様に、おサルさんがハテナを出していらっしゃいます。
そして後ろを振り向くと、なんとここは、いわゆる『お化け屋敷』という、ビックリさせられて喜ぶ場所だったのでしゅ。
人間のやることは時々理解できましぇん。
あ、おサルさん青ざめてクルリと身体を反転させて、そこを出ようとなさっていましゅ。でも立ちはだかるウリエル様にぶちゅかり、渋々暗闇に目を向けました。
ボクの目にはチャチなお人形がたっくさん並んでるようにしか見えないのでしゅがねぇ、こんなものが怖いのでしゅか、おサルさん?
地獄で響く悲鳴の100分の1にも満たないような、ニセモノの悲鳴が響き渡る中、おサルさんがジリジリと進んで・・・ん? 後ろのウリエル様の方を向いて、”後ろ向きに”進んでいらっしゃいましゅよっ、なにやってんでしゅかっ。
あ、ウリエル様無理やりおサルさんを前に向かせていましゅ、フフフ、意地悪でしゅねぇ。
「ぎゃあああっ、ひええええっ、わぁあああ!!! もういやぁあああああっっ!」
怯えるおサルさんをそれは愉快そうに見ていたウリエル様なのでしゅが、突然っ、脇から出てきたオバケさんが、おサルさんを担いで連れ去ってしまいました!
おサルさん、もう声も出ないで引きつっていましゅっ、正にきぜちゅ(気絶)寸前っ。
「マリナっ!」
チェーンソーや斧を持って、恐ろしげに襲いかかるオバケさんが、ウリエル様の前に飛び出してきたのでしゅが、な、なんとウリエル様一瞬で正確にオバケさんをノックアウトし、まっしゅぐにおサルさんを目指して突き進みましゅ!
ちょ、あのウリエル様、これってお遊びじゃないのでしゅか? よろしいのでしょうか、ウリエル様のあとにはオバケの死屍累々が・・・。
ボクは心配になりましたが、通路の行き止まりになんと十字架にはりちゅけ(磔)になったおサルさんが!! きゃあっ。
そばにはさっきおサルさんをさらったオバケさんが、待ち構えていました、おサルさん大ピーンチっ。
「恐怖に負けずよくここまで来た、仲間を返してほしくばこの問題に・・・」
頭の上で機械の声がしたかと思うと、煙がモウモウと吹き出し・・・あ、やっぱりお遊びじゃないでしゅか、良かった。
と、思ったのもつかの間っ、ウリエル様は足を止めず、オバケさんに閃光のような拳を一発入れて、またもやKOしてしまわれましたぁあああ!
「な、なにやってんのあんたぁああああっ!!」
ビックリ仰天したおサルさんがはりちゅけ台から降りてきて、お二人は一目散にお逃げになられました・・・そりゃそうでしゅよねぇ。
たくさんのお馬が回る、可愛らしい光の花束のような乗り物の所まで駆けてくると、緊張に満ちた園内放送が、ちゅめたい(冷たい)空気を震わせました。
『只今ホラーハウス内で、不審者の目撃情報がありました。遊園中のお客様は、充分なご注意を・・・』
楽しい雰囲気が一転ざわつきはじめ、中にはそそくさと早足で出口に向かう方たちもいらっしゃいました。
そんな中ーーーええ、お二人とも、とても愉快そうに笑われていましたよ。
はあ、まったくとんでもないカップルでしゅよねぇ。
気の毒なオバケさんたち、どうか癒しの大天使ラファエル様のご加護がありましゅよう! 決して希望をしゅて(捨て)ないで、強く生きていってくだしゃい!
ちょっと心を痛めつつ、ボクもつられて笑いながら、人も程よくまばらになった園内を、悠々と歩かれているお二人についていきました。
キラキラと煌く光りにも負けずに輝くお二人は、なんてしゅてきなのでしょうね。








それからお二人は、氷の上を滑られたり、楽しげな乗り物にたくさん乗って、とてもはしゃいでおられるようでした。
実際さわいでいるのはおサルさんなのですが、それを見守りつつも、ウリエル様のお顔もとても穏やかで、心からこの時間を慈しんでいらっしゃるのが、ボクにもわかりました。
やがて時間を気にするように、ウリエル様がおサルさんの手を引いて、この園のメインシンボルである大きなお城に向かって歩き出しました。
当然シンボルなので、この中に入れるような催し物はありましぇん。赤い大きな城門は、硬く閉ざされていましゅ。
しかしウリエル様は柵を乗り越え、躊躇なくその前まで進み、不審に首を傾げていらっしゃるおサルさんと共に、城門の前に立たれました。
そして羽織っておられるしゅてきなコートのポケットから何やら取り出し、まるで騎士が贈り物をしゅるようにおもむろに膝をつき、ビックリしてるおサルさんに何やら献上したのでしゅ。
ヒョイとのぞいてみると、それは古めかしい鍵のようでした。
ウリエル様は何も言わず、ただ右手を上向け、流麗な仕草でスッと城門へとおサルさんを導きました。
そこにはーーーなるほど、確かに鍵穴が開いていましゅ。
大きな目を更に大きく見開いて、ワクワクしたような顔でおサルさんがその鍵を城門へと差し込み回すと・・・!
重々しい音がかすかに響き、城門は解錠されたのでしゅ、ふぁんたすてぃーっく!
ウリエル様が手を押し当てると、巨大な城門はなんなく開き、お二人はその中へと身を滑り込ましぇました、しゅごいしゅごーいっ。
人間のウリエル様も、もしかして何かとくべちゅ(特別)なお力を使われるのでしょうか!?
ボクもどきどきして後に続くと、ガランとした空間の一部の壁に埋め込まれたドアが、口を開けていました。
お二人はその箱に乗り込み、ーーーそしてウリエル様は、無言のままおサルさんのお目々を、目隠しておしまいになりました!
慌てたおサルさんでしゅが、ウリエル様の御手が外れようはずもありましぇん。
ジタバタと暴れながらも、扉が閉まり、お二人を乗せた箱は、どうやら上へと昇って行っているようでしゅ。
「さあーーーーーーどうぞ」
ヒュッと寒風が吹きしゅさび、そのお言葉を合図に目隠しをお取りになると、ウリエル様はおサルさんの片手をとって、前面の空間へと導かれました。
「わあ・・・・・・!!」
なんとーーー眼下にはこの園が一望のもとに広がり、まるで光の海のような光景が横たわっていましゅ。
ウリエル様は、お城のてっぺんのバルコニーに、おサルさんを連れてきてくれたのでしゅよ。
キラキラとお目々を輝かせておサルさんがウリエル様を振り返った瞬間、

ドーン!!!

お空にお花が咲きました。
大きな大きな、それはそれは色とりどりのお花が、いくつもいくつも凍ったお空いっぱいに、壮大な絵のように広がりました!
驚いたおサルさんは一瞬飛び上がって、ウリエル様に抱きつかれたのでしゅが、しゅぐに興奮したようにバルコニーの先端まで走り、落ちんばかりに身を乗り出して歓声をあげておられましゅ。あわわ、危ないでしゅよっ。
すかさずウリエル様がおサルさんを後ろから抱きしめ、ご自分のコートで包んでおしまいになりました。
「スゴイ・・・っ、すごいの! なんてステキ!! スゴイねシャルルっ、あたし花火をこんなに近くで見たのはじめてよっ!! 星が降ってくるみたいっ、キャーっ、たーまやーっ!!」
興奮してトンチンカンな叫び声をあげるおサルさんに苦笑いして、ウリエル様も遠い眼差しで、その夢の様な光景をご覧になられていましゅ。
「あっ、☆型にスマイルマーク、あれ土星だわっ、可愛いっ、あそこにハート!キレイ~~~」
ぎゅっとおサルさんを抱きしめながら身をかがめ、ウリエル様は白い息を吐きながら、「君の瞳もね」とおサルさんの耳元で低く囁きました。
とたんにポンっとほっぺを爆発させながら、おサルさんがモジモジしていると、ウリエル様は麗しい唇を、おサルさんの大きなお目々の上に押し当てました。
そのお顔はなんとも安らいで、聖画から抜けだしたかのような清廉さでした~。
ボクがほおっと見とれていると、おサルさんが”そこにキスされたら見えない~”と暴れていらっしゃいました、ふふふ、照れ隠しでしゅね。
「ねえっ、シャルルはどんな花火が好き?」
「そうだな、色は1色で金か銀がいいな。日本の冠菊(かむろぎく)のような流れ落ちるものは、見ていて美しいと思うよ」
「あっ、それキレイよね、おっきい滝みたいであたしも好きっ」
「マリナは?」
「あたしはいろんな色のついたやつ。ホラちっちゃいお花が何個も開いて、また更にちっちゃいのが開いて、みたいなやつ!」
「千輪菊かな。今度は夏に観ようーーーふたりで」
「うん! あ、ハートっ」
ところがその形はひっくり返った逆さまの形で、まるでーーー
「やっだー、おしりみたーい! あっはっは」
でしゅね、うふふ。
楽しそうに笑われるお二人は、間違いなく今の瞬間、世界の王様とお妃様のように見えました。
やがてウリエル様の胸の中でくるりと振り返り、おサル・・・っとと、マリナしゃんでしたね。マリナしゃんは愛おしそうに精いっぱい腕をまわしてウリエル様を抱きしめ、たくましいお胸に頬ずりなさいました。
「ありがとう、シャルル。ほんとにありがとう。
わがまま聞いてくれた上に、こんな素敵なプレゼントしてくれるなんて、あたし、もうなんて言ったらいいか困っちゃうくらいよ」
「オレは君の笑顔が見たいだけ・・・オレもそれだけなんだよ、愛しいマリナ」
ウリエル様は優しくそう言って、ぐいと黒い髪をお取りになりました。
パッと細かい光が辺りに散り、風にそよぐ白金の美しいおぐしが、まるで宝石のようにしっとりと輝いて姿を現しました。
その様ははっと息を飲むほど美しく、マリナしゃんの大きな瞳にその降り注ぐ光が反射し、まるで泣いているかのようにきらめきました。
「夢見てるみたいよ・・・夢なら覚めないでほしいわ」
「こんなところで夢見たら風邪を引いちまう。夢ならオレが何度でも、どんな夢でも見せてやる・・・」
「シャルルーーー」
抱きしめあったお二人がその愛を分かち合おうと唇を寄せたその時、ウリエル様のコートの中で、何やら機械音が響き渡りました。
ピタリと止まったお二人は、一旦お顔をひいて、ため息をつかれました。
ウリエル様はそれは煩わしそうにその機械をお取りになると、光る画面を見て、切なげな眼差しをマリナしゃんに向けられました。
どうやら致し方ないご用事の様子です。
身を翻したウリエル様は、その通信機器で何やら難しい言葉を早口で喋りながら、反対側へと離れて行かれましゅ。
マリナしゃんはウリエル様のコートの中から出て、一人とぼとぼとバルコニーの先まで歩いて行かれました。
ウリエル様はやはり何か責任のある立場の方らしいでしゅね、かわいそうにマリナしゃんはご自分を抱きしめて、何かに必死に堪えておられるようでしゅ。・・・ただ寒いわけではないのでしゅよね、お察しいたしましゅ。

「ーーーこんな調子だと・・・もしかしたら、クリスマス、ないかもしれない、わね・・・」

ポツリとつぶやかれて、マリナしゃんはバルコニーの手すりにおでこを当てて、きつく瞳をとじていらっしゃいましゅ。
えっ、聖なる夜を二人でお過ごしになれないと!? 
人間ウリエル様は、それほどまでにお忙しいお方なのでしゅかっ、なんておかわいそう。
その時ボクは見てしまったのでしゅよ、マリナしゃんの瞳からこぼれる大きな雫を!
ズッキンと胸が痛むほどの澄んだ色をしたその涙は、マリナしゃんの無償の愛であふれていらっしゃいました。



「クリスマスなんて、なんにもいらない・・・っ、お菓子もプレゼントも。

ただあんたが、・・・・・・そばにいてくれるだけで、いいの、シャルル・・・・・・!」



ボクは、ボクは胸が張り裂けそうでした。
外界に降りてしばらく、それほど強い愛を感じたことが久しくなかったからでしゅ。
ただ想う。
人間が持つとても強い力なのでしゅが、現代の方々はその素晴らしさになかなかきじゅけ(気づけ)ないのでしゅ。
ああ、主よ。ボクは無力でしゅ。
愛しい人を想って涙をながしゅ女の子一人すら、しゅくって(救って)あげることができないなんて。
ボクは何のためにここにいるのでしょう、主よ。
ボクの目からも、ポロリとこぼれた雫が、地上に落ちましたーーーしゅると、お城の尖塔の影のところで、何やら強い光が輝いたのでしゅ!
こ、このあたたかい光は天上界のものっ。
しかもそれに、マリナしゃんもきぢゅかれ(気づかれ)ました。
ボクと彼女はその方向へ吸い寄せられるように進むと、壁の死角に光るあるものを目にしたのでしゅ!!
あ、あああああ! 
ボクの無くしたラッパでしゅ~~~~! こんな所にあったとは~っ!!
あ、アレ? そういえばココ・・・よく見ると、昼間にお昼寝した所によく似ていましゅね、ハ、ハハ。
ええいっ、マリナしゃんっ、そのラッパを吹くのでしゅっ。
聖なる夜のことはお約束はできましぇんが、今のこの場でボクから福音をお授けいたしましゅ!
さあ!!
「・・・なにこれ、遊園地の小道具かしら?」
マリナしゃんはボクに背中を押されてそれを手に取ると、しげしげと眺められて、息を吸い込み・・・っ、
「マリナ!? どこだ?」
う、ウリエル様~~~っ、もうちょいでしたのにっ。
「こっちよシャルル、反対側」
その声を頼りに小走りで駆けていらっしゃると、ウリエル様は、いくぶん申し訳なさそうな疲れたお顔をされていらっしゃいました。
「ーーーすまない。ホットラインだったから放っておけなくて」
「ううん、いいのっ。今回の来日だって無理やりだったしね、いつ帰るの?」
「・・・明日の早朝になりそうだ、もう少しゆっくり出来ると思ったんだが」
「わかった! 大丈夫よ、あたしも仕事片付けてすぐにあんたのとこ帰るからっ。
ホラホラ、そんな顔しないでよ、せっかくの最高のシチュエーションが台無しになっちゃうわよっ」
精いっぱいの明るい声で、マリナしゃんは広いウリエル様のお背中を、バンバンと叩かれましたーーー優しいお方でしゅ。
そしてとてもお強いでしゅね。
ぎゅって握られた片方の小さなお手々に全部を閉じ込めて、ガマンしてらっしゃるのでしゅね。
マリナしゃんが笑わないと、人間ウリエル様・・・シャルル様が心配されてしまいましゅものね。
小さく苦笑いされながら、シャルル様はマリナしゃんを引きこみ、その胸深く抱きしめられました。
互いを想うこんなにも強い気持ちが地上にはあるというのに、この大地にはまだまだ悲しみが根深くはびこっていましゅ。
1日でも早く、皆がその恩恵にきじゅけるように、ボクはがんばりたいと、そんなお二人を見て、誓いを新たにしました。
「クリスマスプレゼントはなにがいい?」
ふいにそう問うシャルル様の腕の中で、マリナしゃんがかすかに震えるのがわかりました。
先ほどの望みが、苦しげに喉まで出掛かっているのがボクにはわかりましゅ。
それを言っても、困らせるだけなのがわかっていらっしゃるんでしゅよね、言えないんでしゅよね。
しぇちゅない(切ない)乙女心でしゅね、ううう。
「お、ーーーおっきいケーキ、とかっ、コピック全種類とかっ、それからっ」
「それから?」
「い、今は思いつかないわよ、あんたがくれるならなんでもいいわ」
「君に喜んで欲しいんだ」
「だったらーーーっ」
ガバリとお顔を上げて、マリナしゃんは叫びました!
ああっ、言っておしまいになるのでしゅかっ。
でもそのお気持ちもわかるから、ボクにはあなたを止めることはできましぇん。
淋しさは積もれば積もるほど、重くただれ、いちゅしかネジ曲がり心を黒く変えてしまいましゅ。
そうなる前に、吐き出しゅこともいたし方のない事。誰もあなたをしぇめ(責め)られましぇん……マリナしゃん。
ちゅぎに(次に)おこるであろう、感情の噴出にボクがぐぐっとこらえたその時、目の前でマリナしゃんはーーーニッコリ笑われました。


「あんたが今まであたしにしてくれた以上のこと! 

あたしのお願いは、普通のサンタごときが叶えられるようなオモチャじゃないのよ、ふっふっふ」


シャルル様は驚かれて目を見開いて、そんなマリナしゃんを見つめていらっしゃいましゅ。
ボクも驚きました。一見粗野に見えるこの女の子は、とても優しいお顔を隠しておられたのでしゅよっ。
その時、シャルル様がなぜこの方に惹かれたのか、わかったような気がしました!
この胸に感じる熱く弾けるようなドキドキは、きっとシャルル様のものでしゅね。
苦しい程に募る想いをお互いに抱えつつも、このお二人はなんとしゅてきな恋をなさっておられるのでしょう!
マリナしゃんの問いに胸踊らせるシャルル様の瞳に、生き生きとした星のような光が溢れましゅ。
これは乙女のトンチ問題でしゅっ、マリナしゃんのことを考えれば自ずと答えはでましゅよ! ふふふ、シャルル様、ガンバってっ。
マリナしゃんは背伸びをして、そんなシャルル様の唇にちゅっとキしゅをされ、コートをパッと飛び出されました。
そんな彼女のしゅがた(姿)はとても愛らしく、ボクはいつしか夢中でマリナしゃんのくるくる変わる仕草を、目で追っていました。
「ねえシャルル、さっきそこでこんなの見つけたのよ。カワイイでしょ!パレードの道具かしら」
「ほう、ずいぶん古めかしい・・・凝った装飾だ。アールヌーボーを模しているようにも見えるが、雰囲気がまるで違う。素材も・・・なんだこれは、今まで触れたことのない感触だ!
とてもパークの小道具レベルとは思えん」
ふふふ、しょれ(それ)は音楽の守護者でもあられるイスラフィール様が、直々に手がけた逸品なのでしゅよっ。
心して触れてくだしゃいっ。
「へえっ、お宝かしら。・・・鳴るのかしらね」
「マリナ! 外に落ちている物に不用意に口をつけるなと・・・!」
シャルル様のお小言などどこ吹く風で、マリナしゃんは胸いっぱいに吸いこんだ空気を、思いきりボクのラッパに吹き入れました。




と、ーーー天から降り注ぐような音の玉が、辺りに恍惚と響き渡ったのでしゅ!




鳴ったっ、ボクの目に狂いはありましぇんでした!

そもそもボクたちの天具は、人間には触れることも見ることも、ましてや奏でる事など到底できないものなのでしゅが、数百年に一度くらい、しょれを使える力を発現さしぇる人が現れるのでしゅ。
ボクが引きちゅけられたこと自体が、しゅでに(すでに)奇跡を暗示していたのかもしれましぇん!
結果としてラッパも見ちゅかりましたし、お二人が互いに想われる無償の力が相乗効果となり、主に届いたのでしゅよ、きっと!



さあ、ささやかでしゅが、ボクからの福音でしゅ!



「ギャッ、ラッパが消えたぁっ・・・う、ーーーうそっ、シャルルっ、ぎゃああああっ、あんた光ってるわよぉ!!」

「なっ、なんだこれは!」

「まぶしっ・・・」






白くまばゆい天界の光が、お二人を包み込みましゅ。
ラッパ探しをお手伝いしてくだしゃり、ありがとうございました、マリナしゃん。
もう少ししゅなお(素直)でおしとやかになってくだしゃい。あなたの大らかな愛が、いつかシャルル様に届きましゅように。
一途な愛で見守りつつ、ご自分の中の均衡を強靭な精神で必死に取っていらっしゃるシャルル様。あなたの愛が、いつか安らげましゅように。
お二人を包む光が弱まってきましゅ。
現れたのはーーー

「なんだこれは!!」
「あ、あはははははははは!!」

どうでしゅかマリナしゃん? お望みのものでしょう?
笑いながらマリナしゃんが抱きつかれたシャルル様は、聖ニコラウスの姿をなさっていましゅよ、つまりーーーサンタクロースさんでしゅ!
「すごいすごいすごーいっ。コレなの、あたしこれが欲しかったのっ。
ありがとーっ、カミサマーーーーー!!」
ビックリ仰天なさってるシャルル様も、先ほどの花火にも負けないような溢れんばかりの笑顔を目にされ苦笑いなさると、歓喜なさってるマリナしゃんを軽々と抱き上げ、お髭のお顔でキしゅなさったのでしゅ。
「ちょっと早いけどーーーJoyeux Noël サンタ笑いは勘弁してくれよ、愛しいマリナちゃん」
マリナしゃんはちょっと瞳をうるませて、そんなシャルル様の首元に強く強く抱きつかれました。
そう、マリナしゃんの願いは”普通のサンタさん”では、叶えられないものだったのでしゅよ、シャルル様。
マリナしゃんにとっては、あなたの存在そのものが、大切な贈り物なのでしゅ。
さて、お別れに、ボクからもうひとちゅ贈り物でしゅっ。
天の星に向けてラッパをひと吹き。
「ーーーわあっ!」
その音に惹かれるように、星々が地上に降り注ぎましゅ。
「やれやれ、どうなってるんだ今夜は・・・まったく君といると、退屈という文字がまるで存在自体が冗談のように思えるね、可愛い魔法使い。
君はオレの夢ーーーそのものだ」
見ちゅめあうお二人を祝福しゅるように、星々が流れ落ちまていま・・・あ、あれっ、ひとちゅヘンな動きのお星しゃまが・・・、あ、ーーーあわわわわっ、お二人とも逃げてぇえええええ!

「え、」
「うっ」

お二人目掛けて一直線に突進してきた金色に光る星が、あろうことかマリナしゃんのお、お口にっ、飛びこんでっっ!



ーーーゴックン!!



ピカッと一瞬光ったお腹を撫でて、お二人は青ざめておられましゅ・・・ああ、しぇっかく感動的なラシュト(ラスト)シーンを演出できたと思ったのにっ!
ああ主よっ、ボクにもっと試練をお与えくだしゃいーーーっ。

まあ、いいでしゅかね。
きっと近いうちに、お二人にとてもしゅてきなことが起こるでしょう。
お二人の愛が強ければ強いほど、それは早いはじゅでしゅよ、ふふっ。

慌てふためいたお二人は、感動の奇跡もそこそこに、検査だなんだと叫ばれて、夢のお城を出て行かれました。

夢も奇跡も聖夜も、お二人次第。
お二人が揃っているからこそ、夢も奇跡も感じることができるのだということを、どうか、わしゅれ(忘れ)ないでくだしゃい。





そしてボクはわかりました。


人を想う気持ちを持たれる方のおそばには、いつでも『小さな楽園』があるのだということがーーー。






またいちゅかお会いできるその時まで、いちゅも見守っていましゅよ。

幸せに、愛しい子等よーーー














「・・・リっ、ユーリ! いつまで待たせるのですか、早くなさいっ」




「ははは、ハイぃいっ!  申し訳ありましぇん、天使長さまぁっ!」










Mimi Eden(ミミエデン)~小さな楽園     fin



この作品を、リクエスター愛川ユーリさんと、
シャルルとマリナを愛するあなたに捧げます。 





















ハ~イ、いかがでしたでしょうか(笑)
マジックファンタジーなシャルマリくりすますでございました♪( ´∀`) おそまつさまです☆彡

ちなみにタイトルになった『ミミエデン実は薔薇の品種名です♪ 

このお話は、書き上げてもタイトルがさっぱり降って来なかった、めずらしいモノでした(^_^;) しかし、作品を書いた当時(笑)病院通いでヘタってたぷるが、偶然通りがかったお店の店頭に並べてあった宣伝用のバラの冊子を、せめてものナグサメにしようと(;´∀`)手に取ったその中に///

この花はあったのですよ!!!



ひと目で、「これだっっ(;゚∀゚)=3ハァハァ」となりました(ヘンタイめ 笑)

「まるでシャルルがマリナちゃんを抱きしめてるみたい~~~///」

と、ツイッター友達のみぃちゃんと星空さんが評してくださったモノです!!! ウハハ~~~~~~(=^・^=)wwwww 確かにそう見えますよぉおおお!!!(興奮w)

そして、「Mimi」とはこれまた偶然ですが!! ”フランス語”の赤ちゃん言葉で”小さい”を表すのですって!!!!!! 
これまたこれまた偶然ですが(笑)ユーリくんも舌足らず口調でしたね~wwなんかすごく不思議な偶然が重なった、想い出深い作品になりました♪ 萌え萌え~~~~~///ギャハー(*^_^*) 


ヘトヘトだったぷるに(爆笑)、素敵なテーマをくれたユーリさん!! 
いつも応援してくれて☆ありがとう♪ 
いつまでもこんなクリスマス、ふたりに過ごして欲しいですよねwwwwwヽ(=´▽`=)ノ









読んでくれて、ありがとう。------LPDUnderぷるぷる



拍手いただけるとガンバレます( ´∀`)



1 件のコメント:

りんこ さんのコメント...

このお話、ダイダイだいっすきです!(*´Д`*)

ぷるぷるさまは天才です!
シャルルかっこいいっすてきすぎます。
何度でもどんな夢でもみせてやる、腰くだけです///
こんなに生き生きした二人、久しぶりに味わいました。
楽しいお話、本当にありがとうございました!
もちろん書ききれないほどほかのお話も大ファンです!!