2011/04/13

蜜月2 甘美な予感




「…マリナ、着いたよ」





うっとりと目を開けると、そこは見慣れたアルディの正面玄関だった。
ただいつもと違ったのは、そこにズラーっと、アルディの使用人の人たちが並んでいたことだったの。

これにはさすがのシャルルも驚いたらしく、リムジンから降り立ってからその繊細な面を無防備にさらし、しばし呆然としていたくらいだもの。
やがてうやうやしく、執事頭の人が前へ出てきて丁寧におじぎをしてこう言ったの。
「シャルル様、マリナ様、この度はご結婚本当におめでとうございます。
このお館に勤める者は皆、今日の日を心待ちにしておりました。
これからも誠心誠意、お仕えさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。
さしでがましいようでしたが、皆を代表して、お祝いの言葉をのべさせていただきました。お二人のご多幸を、一同心よりお祈りしております。
どうか末長くお幸せに。ご結婚、おめでとうございます」
すると、わあっと暖かい拍手が巻き起こり、あたしたちを包んだの。

しばらくその拍手を浴びてから、シャルルはちょっとはにかんであたしの手を取り、祝福のぬくもりに満ちたあたたかい花道を、ゆっくりと歩きだした。
そして階段の最上段、玄関前で皆を振り返える。
あたしの肩を抱いて、凛とその顔を愛すべき人たちに向けて。
「皆…本当にありがとう。予想しえなかった事に、正直驚いている。
オレたちの生活は、君達によって支えられていると言っても過言ではない。こちらこそ…これからもよろしく頼む。特にマリナはフランスでの生活には、まだ不慣れだ。皆、よくしてやってほしい」
シャルルはその視線をあたしに落とし、少し小首を傾げた。
君も何か言う? と。
ええ! 言うわよ!
「えーと、シャルル同様、これからよろしくお願いします。
知ってる人も多いと思うけど、あたしは一般庶民のおっちょこちょいです。だから、多少のドジはすると思うけど許して下さい。ご飯をいっぱいおかわりしても、厨房からおやつを拝借しても、怒らないで下さい」
くすくすと笑いが沸き起こる。
「それから…かっこつけて言っているけど、シャルル今とっても喜んでいると思うの。今日あたしが新しく家族になったけど、シャルルはすでにパパもママも亡くしてる。だけど…」
あたしは老若男女、すべての人々の顔が喜びに満ちているのを見た。
「だけど、ねぇシャルル。あんたにはこんなに素敵な家族がたくさんいたのね」
すると年配のメイドさんたちが皆、目頭にハンカチを当てて、涙を拭いていた。
「シャルルぼっちゃま…まぁ立派になられて…そして、なによりお幸せそうだ。
先代様とエロイーズ様に、このお姿をお見せしてあげたかった…」
この人たちは、皆知っている。
シャルルが本当に孤独な人生を歩んで来たのを、影から見てきたから。
だから、まるで自分の孫や息子の様に、今日の結婚を喜んでくれているんだ。
あたしは胸をつかれて、目の前にいるたくさんの暖かい笑顔を見つめた。
「あんた、こんなに大勢に愛されて幸せだね、シャルル」
振り仰いだシャルルは空いている方の手で、目頭を押さえていた。涙をこらえるように…。
表情こそ見えなかったけど、口元には本当に穏やかな微笑を浮かべて。
そうやって静かに立ち尽くす彼の姿は、純白の光に包まれて、祝福されて生まれ変わった若い神様のようだった。
あたしは隣に立っていて、そんな彼がとても誇らしく感じた。
今度は、あたしがそっとハンカチを差し出す番。
そうしてみんなに大きく手を振って別れを告げ、あたしはシャルルと優しく手を繋いで、館の中に入った。
豪奢な絨毯の上をしばらく歩くと、シャルルは小さく吐息をつき、
「こんなに感情が揺れ動く日は、しばらく遠慮したいね。…疲れた」
それでも満足そうに微かに笑いながら、そうこばしたの。
その様があんまりにも可愛くて、あたしはからかわずにはいられなかった。
「案外涙モロイのねぇ、クールなシャルルクン。いつもの鉄面皮はそれを隠すためぇ?」
するとシャルルは憤然と振り返り、あたしの足元を自分の爪先でこづいたのっ。
あ、あ、きゃああっ。
忘れてた! 15センチ厚底!
あたしはあっという間にバランスを崩し、フカフカ絨毯の上におもいっきり尻をぶっつけたのよぉ!!
これが今日結婚したばかりの花嫁にする仕打ちかぁ、オニシャルル!
そんなあたしを置いて、シャルルはその美貌の姿を翻し、どこまでも続くかと思えるような廊下を、さっさと行ってしまったのだった。


がるるるるっ









あたしは着替えのために、シャルルとは別の間に通された。
穏やかなクラッシックが流れる静かな部屋で、あたしは改めて姿見にうつる自分を見た。
まるでお伽話しに出てくるような素敵な部屋に、やさしげなオフホワイトの布地を纏ったあたしは、自分で言うのもなんだけど、ちょっと白バラの精みたいじゃない!? 
身長も普段より15センチも高いし、なんだか自分じゃないみたい。
気どってポーズをつけた瞬間、またもやバランスを崩し、あたしは両脇にいたメイドさんにあわてて支えられた。
あはっ、やっぱ自分にムリは出来ないわねぇ。
別れ際のシャルルの態度は悔しいけど、このドレスってばホントに芸術よぉ。
着心地すら素晴らしいこのドレスを脱いじゃうのは、ホントに惜しいものっ。
あんまりあたしの体にピッタリなもんだから、さっき思わず「これ普段着にしてもいい?」ってシャルルに聞いたくらいだもの。
…あからさまにやな顔されたけど。
いいじゃないっ、それくらい気に入ったってことなんだから!
マリナ様、お召し替えしてもよろしいですか?」
クスクス笑いながら、遠慮がちに言うメイドさんに、あたしは赤面してうなづいた。
あたしはハンガーに掛けられたドレスと対面して、今日を思い返した。
皆がくれた笑顔と言葉、心に打ち寄せた感動、そしてシャルルのすべてを…。
ああ、あたし、結婚したんだぁ…
と物思いに耽っていた途端に、



グググ、グゥ~



一瞬皆の手が止まって…大爆笑。
だってぇ、忙しくって朝からロクなもの食べさせてもらえなかったのよ!
も~おなかすいて、おなかすいて、目がマワリそうだったわ。自然の摂理なのよ、体は正直なのっ、許して!
「はいはい、そう急かさないでくださいな。今終わりますから。そうしたら、別館の方の素晴らしいお食事にありつけますわよ」
年配のメイドさんが可笑しそうに目尻を拭って、あたしにワンピースを被せた。
ドレスと同色の下地に紅い小バラを散らした、ゆったりしたジョーゼットのワンピは、もー肌触りサイコーっ。
背中でふんわりと結ばれたリボンに足元はふかふかの室内履。
うーん、お嬢様な気分だわっ…て、あたしシャルルと結婚したんだから、ここの奥様になるわけよねぇ。
あたしは周囲を見回し、東京での貧乏生活との雲泥の差に今さらながらに気づいた。なんだかひどく場違いな気がしてしょうがなかったけど、この際どうなるものでもないもんねっ。
あたしはシャルルと結婚したんであって、そのシャルルはたまたまアルディの当主だっただけだもん。
場違いだろうが、どうにもならんっ。あたしはどこいっても、あたしなんだから。
ま、住めば都っていうし、なんとかなるわよね。
…とりあえず今は、このおなかのムシを大人しくさせないとっ。
5人前くらいいけちゃいそうだわっ…今頼んどいた方がいいのかしら。後でまごついて待たされるなんて、いやだしねっ。
メイドさんに声をかけようとしたその時、涼やかな声が部屋に響いた。





そんなわけないでしょ!…と言おうとして、振り向き様に飛び込んできたシャルルの姿に、あたしは唖然とした。
そばにいたメイドさんたちなんか、手にしていた全ての物をバラバラと床に落し、まるで魂を抜かれたみたいになっちゃった!
部屋の入り口のドアに、静かにその長身を寄り掛からせ、腕組みをしたシャルルのいでたちは、純白のタキシードとはうって変わっていた。
はっとするような深い藍色のシルクのブラウスに、黒のパンツという普段では滅多に見られない濃い色調の装いで、しかも珍しくブラウスのボタンを第二くらいまで開けたままにし、その襟元から覗く首筋と鎖骨がなんともセクシー!
あたしの文句はあんぐりと開けた口から、ポロポロとこぼれ落ちていった。
ど、どうしちゃったのぉ、シャルルったら! フェロモンふりまいちゃってっ、やだっ、絶対顔赤くなってるわよぉ。
するとあたしの様子に気づいたのか、白金の髪をさらりと揺らし、上品な青灰の瞳をうっとりと細め、挑発するような視線を投げかけてきたのぉ。


もう、逃げられないよ、マリナ


そう瞳で言われたような気がして、あたしの心臓はひどくドキドキし、でも、目はシャルルから離すことは出来なかった。
抗いがたい不思議な力が、あたしをそうさせていた。
思えばもうこの時、あたしはシャルルの魔法にかかってしまっていたんだ。
「行こうか、子ネコちゃん。当主しか使うことを許されていない、特別な館へ…」





すいと差し出されたしなやかな指に吸い寄せられるように、あたしはふらふらと歩き出した…。

















※上記掲載のうっとり素敵///シャルルは、華麗にネット復活を遂げ、しかもブログマスターとして活躍中のぎんがさんに、”らぶぱんちどらんかー”時代にいただいたものですぅぅぅぅ~~~~~>*0*<キャアアッっっっっw ぎんがさんの眼福!美麗!!イラストはwこちらまで♪ ぎんがすわぁああん( ;∀;)ほんっとにありがとぉおおお!!あんなシャルルがドア口に立ってたらあたしゃ気絶するね!自信アルっっ///(2014/05記)





拍手いただけるとガンバレます( ´∀`)


1 件のコメント:

ぷるぷる さんのコメント...

飾ってあるイラストは、LPDに遊びにきてくれていた”ぎんが嬢”にいただいたものです!!
もーもーもー、あんなシャルルがドア口に立ってたらと思うと…///
うわぁああんっ、たまりまへん///

マリナちゃん気分で、ご堪能下さい^^
ぎんがさーーーん、ほんとにありがとーーーう!!(^O^)